面白い馬たち

2015年06月13日(土) 12:00


 6月10日、水曜日。関東オークスを観戦するため川崎競馬場を訪れた。

 パドックのオッズ板に向かって右にある売店のコロッケが美味いとキャスターの秋田奈津子さんから聞いて行ってみたら長蛇の列で、20分ほど待たなくてはならないという。混む前にゲットしたキャスターの原山実子さんと大恵陽子さんが、少しだけ申し訳なさそうな顔をして頬張るところをなるべく見ないようにし、2階の食堂に向かった。

 食堂の並びにあるガールズスタンド「バール」のカウンターに、荘司典子さん、小島友実さん、栗林さみさんら、面識のあるキャスター陣が入っていたので、フランクフルトでも買おうかと思ったが、勇気が出ず、結局食堂に入った。頼んだのは勝つ煮(カツ煮)だった。

 ――勝つね、が訛って勝つに、か。2番はなんだろう。スキースクールか。この季節に来る馬名じゃないな。

 などと、食いながらあれこれ考えられるここはなかなか快適で、すぐ下の直線の攻防をガラス越しに見ることができる。

 今年の関東オークスには、NHKマイルカップで2着になったアルビアーノが出走するということで、ずっと楽しみにしていた。

 馬券はアルビアーノを軸にした馬連と、アルビアーノ、兵庫のトーコーヴィーナス、ホワイトフーガの3連複と、トーコー、ホワイトの単複だった。

 で、結果はというと――。

 1周目スタンド前でハナに立った大野拓弥騎手のホワイトフーガが最後の直線で後続を突き放し、2着のポムフィリアに2秒3もの大差をつけて圧勝した。

 大野騎手が「ストライドが大きい」と言ったホワイトフーガの走りは、父クロフネ譲りだろう。管理する高木登調教師によると「右に張る」ところがあるので、左回りのほうが問題が出やすいというのだが、それでもこの強さ。今後競馬を見る楽しみがひとつ増えた感じがする。

 アルビアーノは、ダートが合わなかったのか、いつもの活力が見られず4着。トーコーヴィーナスは砂をかぶって嫌気がさしたようで7着に終わった。

 というわけで、馬券はホワイトの単複しか当たらなかったのでひどいトリガミだったが、いいレースを見せてもらったし、カツ煮もまあまあだったので、満足である。

 翌11日、第56回宝塚記念ファン投票の最終結果が発表された。

 史上初の3連覇を目指すゴールドシップが2年連続で1位となった。

 2位のエピファネイアが故障のため回避することになったのは残念だが、今年もドリームレースと呼ぶにふさわしい好メンバーが集まりそうだ。

 今でもうっすらと残ってはいるのだが、宝塚記念というと、かつては、「天皇賞・春を制した長距離王と、安田記念を制したマイル王が間をとった中距離で戦う、真の王者決定戦」というイメージが強かった。

 1988年の天皇賞・春を6連勝で制した芦毛のタマモクロスと、前年の天皇賞・秋とマイルチャンピオンシップ、そしてこの年の安田記念を勝ったニッポーテイオーとのガチンコ勝負となった第29回宝塚記念などは、本当にしびれた。先行したニッポーテイオーを、タマモクロスが直線でかわして突き放し、二強のワンツーで決着した。

 当時、安田記念から宝塚記念までは中3週だったのだが、今は中2週と、間隔が短くなっている。

 スケジュール的に厳しくなったうえに、そのタマモクロスをはじめ、メジロライアン、メジロマックイーン、マヤノトップガン、マーベラスサンデー、テイエムオペラオー、ヒシミラクル、ディープインパクト、オルフェーヴル、ゴールドシップなど、宝塚記念を勝つのは、距離を縮めてきた馬のほうが圧倒的に多い。タマモ以降、安田記念からここを勝ったのは、オサイチジョージ、グラスワンダー、ダンツフレーム、スイープトウショウぐらいだ。

 それもあって、今年も安田記念組は参戦しないのかと思っていたら、メンバー最速の上がりで2着に追い込んできたヴァンセンヌが登録するという。

 安田記念でも序盤は押しながらの追走だったように、掛かるタイプではないので距離はこなせるだろう。同じ芝2200メートルの京都新聞杯で12着に惨敗しているが、デビュー2戦目で、まだ完成される前に重賞に出たわけだから、敗因は別のことと思われる。

 面白い存在になりそうだ。

 今週末のエプソムカップには、昨秋の東京芝2000メートルのアイルランドトロフィーで、最内から外埒ぞいまで逸走しながら圧勝したエイシンヒカリが出てくる。

 距離、コース、馬場状態不問で、すべてにおいて万能だったサンデーサイレンスの血が、子や孫の世代になるにつれて、さまざまな個性や癖を強く見せるようになってきた。

 父ディープインパクトに母の父ストームキャットというキズナ、ラキシスなどと同じ配合というのも面白い。

 東京のGI5連発が終わっても、まだまだ面白い馬がどんどん出てくる。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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