第16話 壊し屋

2012年09月17日(月) 18:00

▼前回までのあらすじ
福島県南相馬市の杉下ファームは、2011年3月11日の東日本大震災で津波に襲われた。代表の杉下将馬が救い出した牝馬は牧場に戻って牡の仔馬を産み、息絶えた。仔馬は「キズナ」と名付けられた。キズナは、美浦の大迫調教師とともに訪ねてきた馬主の後藤田によって1億円の高値で購入された。キズナは2歳の春、美浦トレセンに近い育成場に入った。そこで将馬は、キズナの主戦騎手が「競馬界の問題児」と呼ばれる上川博貴に決まったことを知らされた。

『壊し屋』

 美浦トレセンで「馬最優先」の標識を見るたびに、場内の交通ルールのみならず、馬との接し方すべてに思いが至り、身が引き締まる。そういう関係者は自分だけではないはずだと思いながら、将馬は大迫厩舎のある南F列の奥のスペースにクルマを停めた。

 午後3時を回ったところだった。・・・

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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