2012年09月24日(月) 18:00
▼前回までのあらすじ 福島県南相馬市の杉下ファームは、2011年3月11日の東日本大震災で津波に襲われた。代表の杉下将馬が救い出した牝馬は牧場に戻って牡の仔馬を産み、息絶えた。仔馬は「キズナ」と名付けられた。キズナは、美浦の大迫調教師とともに訪ねてきた馬主の後藤田によって1億円の高値で購入された。キズナは2歳の春、美浦トレセンに近い育成場に入った。キズナの主戦騎手は「壊し屋」と呼ばれる上川博貴に決まった。
『注文』
上川が「壊し屋」というありがたくない呼ばれ方をされるようになったのはいつからだったか。
3年前、騎乗した新馬戦で2度つづけて競走中止になったときか。いや、もっと前から呼ばれていて、あの連続競走中止で定着したのだった。しかし、1頭目は他馬の落馬に巻き込まれたもので、次の馬はパドックで跨ったときから歩様が悪かった。調教師に出走を取り消すよう言ったのに押し切られ、最悪の結果になってしまった。
上川に責任はなかったのだが、タイミングが悪かった・・・
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。 関連サイト:島田明宏Web事務所