2012年10月08日(月) 18:00
▼前回までのあらすじ 福島県南相馬市の杉下ファームは、2011年3月11日の東日本大震災で津波に襲われた。代表の杉下将馬が救い出した牝馬は牧場に戻って牡の仔馬を産み、息絶えた。仔馬は「キズナ」と名付けられた。キズナは、美浦の大迫調教師とともに訪ねてきた馬主の後藤田によって1億円で購入された。2歳初夏のデビュー戦を控えたキズナの主戦は「壊し屋」と呼ばれるかつての一流騎手・上川博貴に決まった。上川は大迫から勝ち方の注文を受けた。
『ファーストコンタクト』
「わたしがキズナに乗らなくなるって、どういうことですか!?」
と内海真子は上川博貴を睨みつけた。
「言葉どおりだ。お前はあの馬に関しては、持ち乗りではなく厩務員業務に徹する、ということだろう」
「でも、そうやって、上でいじめる人間と下で可愛がる人間を分けるのは、牝馬のときだけのはずです。どうして……」
真子は目を真っ赤にして走り去った。
彼女の後ろ姿を見送りながら、上川は舌打ちした。
――大迫のテキ、わざわざおれに言わせやがったな。
策士の大迫のことだ。何か考えがあってこうさせたのだろう。・・・
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。 関連サイト:島田明宏Web事務所