第27話 三強

2012年12月03日(月) 18:00

▼前回までのあらすじ
福島県南相馬市の杉下ファームは、2011年3月11日の東日本大震災で津波に襲われた。代表の杉下将馬が救い出した牝馬は牧場に戻って牡の仔馬を産み、息絶えた。仔馬は「キズナ」と名付けられた。美浦の大迫調教師とともに訪ねてきた後藤田オーナーによって1億円で購入されたキズナは、かつての一流騎手・上川を鞍上に迎え、2歳のデビュー戦を勝った。次走の重賞で、超大物と言われるライバルに惜敗するも、2歳王者決定戦の朝日杯FSで雪辱を果たした。

『三強』

 ゴールをわかっているのか、キズナは入線後すぐに全身の力を抜き、ゆっくりと1コーナーに進入した。そして、鞍上の上川博貴からの「止まれ」の指示を待っている。

 ――よくやった。たいしたやつだ。

 キズナを止めかけたとき、すぐ外を三好晃一のマカナリーが駆け抜けて行った。三好はこちらを見ようともしなかった。

 キズナをターンさせ、スタンド前に戻った上川は目を見張った。

 2歳GIとは思えないほどムービーやスチールのカメラマンが多く、彼らの向こうのスタンドでは、10万を超える大観衆が波のようにうねっている。返し馬のときやレース中にこのスタンドの様子に気づかなかったということは、冷静なつもりでいた自分も、どこか舞い上がっていたのかもしれない・・・

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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