2012年12月10日(月) 18:00
▼前回までのあらすじ 福島県南相馬市の杉下ファームは、2011年3月11日の東日本大震災で津波に襲われた。代表の杉下将馬が救い出した牝馬は牧場に戻って牡の仔馬を産み、息絶えた。仔馬は「キズナ」と名付けられた。美浦の大迫調教師とともに訪ねてきた後藤田オーナーによって1億円で購入されたキズナは、かつての一流騎手・上川を鞍上に迎え、2歳のデビュー戦を勝った。次走の重賞で、超大物と言われるライバルに惜敗するも、2歳王者決定戦の朝日杯FSで雪辱を果たした。
『暫定王者』
2014年の正月開催で、上川は中山金杯勝ちを含む10勝の固め打ちをし、久々にリーディングのトップに躍り出た。
しかし、気分は晴れなかった。このところ繰り返し脳裏によみがえってくる、あるレースシーンのせいだった。それは、キズナで制した朝日杯でもなければ、人気薄で逃げ切った金杯でもなく――。
他場のモニターで見た、ラジオNIKKEI杯2歳ステークスでのヴィルヌーヴの走りだった。
名手・武原豊和が操るヴィルヌーヴは・・・
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。 関連サイト:島田明宏Web事務所