「巧詐は拙誠に如かず」

2014年05月15日(木) 12:00


◆ミッキーアイルの逃げ切りに想う

 巧みに表面をとりつくろうのが「巧詐」(こうさ)で、つたなくとも心のこもったやり方を「拙誠」(せっせい)と中国の古典「韓非子」は述べていて、「巧詐は拙誠に如(し)かず」と教えている。巧みに人をあやつるようなやり方より誠実に対応していくほうが、長い目で見るとはるかに優っていると言っているのだが、この「急がばまわれ」の精神を果たして実行しているかどうか。ただ、その場その場をつくろっていたのでは疲れるし、いつか馬脚を表わしそうだから、気張らずに肩の力を抜いて生きてきたつもりだ。誠に勝るものはないという信念、これは世の中を良くしてくれると思っているのだ。

 ミッキーアイルのNHKマイルカップの勝利に接し、ふと頭を過ったのがこれだった。初めての東京競馬場、そして初の左回り、4連勝の全てが逃げ切りという大本命馬がどう戦うかと言っても、やはり逃げるだけだろう。思ったよりスタートはゆっくりに見えたが出てからが違う、直ぐ先頭に。誰しもが分かっている戦い方、こんなにはっきりしている馬はいない。全てからマークされる、そうであっても逃げる。終始リードはしていても、少し初めての左回りを気にしているように見えた。スピードに乗って引きはなすというシーンまで期待してはいけないのか。でも、戦況に動きはない。そのまま、そのまま、「巧詐は拙誠に如かず」、誰しもが思っている、いや期待している大本命馬の姿がそこにあったのだった。

 以前、ヴィクトリアマイルが新設された記念すべき第1回のレースで、2年前の桜花賞馬ダンスインザムードが女王復活を遂げたことがあった。北村宏司騎手がデビュー8年目で初めてのGI制覇を果たしたのだが、勝ち気な馬をなだめて終始内々でレースを進めていた。藤沢調教師はそれでも、少しスパートをするのが早かったねと笑っていたが、その本来の姿、戦い方がマイル戦でよみがえったところに、初代女王らしさがうかがえて心が和んだのが思い出される。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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