「上善は水の如し」

2014年06月19日(木) 12:00


◆結果だけでなく、その先も

 逆らわない、その理想的な生き方を水に例えることがある。水は万物に恵みを与えながら相手に逆らわず、人のいやがる低いところへも流れていく。「上善は水の如し」と老子は述べ、水に学べとまで言っている。水は柔軟性があり、どんな器にもそれに合わせて入るし、動植物は水なくしては生存できない。だからといって、水は自分の力を誇示することはない。そこには、あるがままの姿があるだけだ。そんな水の持つ、何事にも逆らわないこころは、身近な競馬にも見ることが出来る。

 初重賞制覇、そこに至る日々を検証すると、その多くが、逆らわずひたすら成長を待ち続けていたのだ。エプソムCを勝ったディサイファはデビューから22戦目、5歳の6月にしてようやく飛躍の足掛かりをつかむことができた。成長が遅いことを承知し、先を急がずにじっくり見てきたのも、きゅう舎の期待が大きかったからで、父ディープインパクト、母の父がドバイWCなどを勝った歴史的名馬ドバイミレニアム。素質がいつ開花するか、その日が来るのをひたすら待ち、戦いながらも慌てずにレースを選んできた様子は、2ヶ月ずつレース間隔を空けてきたことで推し量れる。そして、ここなら勝てるとのぞんだのがエプソムCだった。小島太調教師は、夏を越せば本物になるとさらなる可能性を念頭においているが、「上善は水の如し」のこころのまま、その日が来るのを信じている。ここからステップアップする馬がよく見られるのがエプソムCだから、ディサイファの次走に、一緒に夢を見ようではないか。

 ユニコーンSは、ジャパンダートダービーの前哨戦になってから、度々ダートのチャンピオンを生んできた。ここを勝つことは、将来を約束されるようなものだが、どこか無理をしてきた馬には、それは叶わない。ここまで逆らわず来られたか、この先も逆らわず戦っていけるか、結果だけでなくその先の行く末まで見通す楽しみのあるレースだ。「上善は水の如し」をもう一度見直したい。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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