優駿エッセイ賞と赤毛のアン

2014年10月25日(土) 12:00


◆競馬に関する読み物の話

 先日、JRA六本木事務所で「優駿エッセイ賞」の選考委員会が行われた。

 今年30回目を迎えるこの賞は、競馬、馬を題材としたエッセイであれば形式は自由。原稿用紙10枚。〆切は8月15日だった。

 選考委員は、芥川賞作家の古井由吉さん、大宅賞作家の吉永みち子さん、吉川英治文学新人賞などを受賞した大崎善生さん、優駿編集部の山上昌志さん、そして私の5名である。昨年までの石川喬司さんと高橋三千綱さんに替わって、今年から大崎さんと私が加わることになった。意見が分かれて多数決になった場合でもきちんと結果が出るよう奇数にしているのだという。

 選考委員会では、『優駿』編集部で絞り込んだ予選通過作16篇のなかから、グランプリ1篇、寺山修司特別賞1篇、優秀賞2篇、佳作5篇(いずれも最大で)を選ぶことになった。

 それに先立ち、各選考委員が候補作を読み込み、所定の記号で評価したものを編集部に送っておいた。それらをまとめた表を選考委員会当日受けとったわけだが、全員の評価がほぼ一致している作品があったり(グランプリは結局、みなが高く評価していた作品に決まった)、評価が大きく分かれた作品があったりと興味深かった。

 私は、候補作が編集部から届いた日、その1週間後、さらに1週間後……と、あえて間隔をあけ、それぞれたっぷり時間をかけて読ませてもらった。

 作者が真剣に書いていることが伝わってきたので、こちらも真剣に、対決するつもりで、ひとつひとつの言葉を受けとめた。どの作品のどこに気に入った表現があり、どこに誤字があり……といったことまで覚えてしまった。

 自分でも意外だったのは、最初に読んだ印象が、時間を置いて読んで再評価、再々評価したときと、そう変わらなかったことだ。

 にもかかわらず、委員会でほかの方々と意見を交わしているうちに、自分のなかでの事前の評価がいくつか逆転してしまった。

「そういうものでしょう」

 と吉永さん。なるほど、だからこそこうして委員会形式で吟味して議論し、再評価するのだろう。

 予選選考結果は10月25日発売の『優駿』11月号で、最終選考結果は11月25日発売の『優駿』12月号で発表される。

 競馬に関する読み物の話をつづけたい。

 最近NHKテレビで放映された「花子とアン」が面白かったと複数の人から聞いたので、『赤毛のアン』を読んでみた。これが思っていた以上に引き込まれ、アンが競馬場に行ったくだりを見つけたときは嬉しくなった。

<でもあたしも競馬ってあまりちょいちょい行くところではないと思ったわ。だってひどく魅力があるんですもの。ダイアナったら夢中になってしまって、あの赤い馬が勝つと思うから十セントの賭けをしようって言うの>

 アンと親友のダイアナが行ったのは、彼女たちが暮らすカナダのプリンスエドワード島レッドショアーズ競馬場で、見たのは繋駕のようだ。ダクで走る馬がひとり乗りの馬車を曳くレースである。

 10代半ばで競馬にハマりそうになるなんて、アンもダイアナもいい娘だな、と思った。

「半沢直樹シリーズ」で知られる池井戸潤氏の小説にも、競馬に関することが出てくる作品がある。半沢シリーズ最新作『銀翼のイカロス』にそれはなかったが、さすがに一気に読まされた。

『女騎手』『無名騎手』などの著作がある蓮見恭子さんの最新作『イントゥルージョン 国際犯罪捜査官・蛭川タニア』も面白かった。

 昨年、東京競馬場でトークショーをした伊集院静氏の新刊『となりの芝生』は、ときどき吹いてしまうので、電車のなかで読むときは気をつけたほうがいい。

 その伊集院氏がファンだと言っていた、先月亡くなった山口洋子さんの『演歌の虫』『女主人』もよかった。言葉の使い方がとても素敵だ。

 最後に、『赤毛のアン』のなかで、好きになったフレーズを。

<一生懸命にやって勝つことのつぎにいいことは、一生懸命にやって落ちることなのよ>

 さあ、一生懸命仕事をしよう。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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