義を見てせざるは勇無きなり

2015年01月29日(木) 12:00


先週の競馬に見た「縁」

 自分を他人の立場においてみる、これこそが「仁」にほかならないと孔子は語っている。論語では「巧言令色、鮮(すく)なし仁」といったことばが生まれ、ことば巧みに飾りたてたり(巧言)、善人らしく装う(令色)のは、他を思う気持(仁)が少ないと諭しているのだが、若いころから自分への戒めとしてきた。そのせいで「義を見てせざるは勇無きなり」をずっと自分に課してきたのだが、事によっては、当然苦しいことも多々あった。

 だが、その「仁」、心の温かさが、見事成果につながったのを見るのは、この上なくうれしい。この2月一杯で引退する大久保洋吉調教師は、弟子の吉田豊騎手に自きゅう舎の馬にはできるだけ騎乗してもらいたいと願っている。それを察した尾形充弘調教師は、京都牝馬ステークスのケイアイエレガントに8戦連続で手綱を取ってきた吉田豊騎手が同じ日の中山のメインに騎乗するというので、内田博幸騎手に騎乗変更させたのだった。そして結果は、京都牝馬ステークスはケイアイエレガントが9番人気で逃げ切り勝ち、一方中山のメイン、アレキサンドライトステークスでは、吉田豊騎手のベルゲンクライが5番人気で目の覚める追い込みを決めて勝利したのだった。「義を見てせざるは勇無きなり」の精神で、他を思う気持「仁」を行為に移したその心の温かさが、両方に運を呼び寄せたのであり、心安らぐ出来事だった。

 そして、アメリカジョッキークラブCでは、勝利したクリールカイザーの手綱は、ここ8戦続けて乗っていた吉田豊騎手が、自きゅう舎のショウナンラグーンに騎乗するため、田辺裕信騎手のテン乗りだった。そしてさらに、相沢調教師も田辺騎手も、昨年のヴェルデグリーンで勝っていたのでアメリカジョッキークラブC連覇、まさに「縁は異なもの」を見たとも言えたのだ。理屈では語れないことが世の中には多くある。ならば、心安らぐものを求め続けるのがいいのではないか。競馬にはそうした要素が分かりやすく存在している。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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