高松宮記念に参戦する“香港スプリント勝ち馬”エアロヴェロシティ

2015年03月18日(水) 12:00


コパノリチャードを上回るレイティングを獲得しているエアロヴェロシティ

 29日(日曜日)に中京競馬場で行われる「グローバルスプリントチャレンジ」第3戦のG1高松宮記念(芝1200m)に、香港調教馬エアロヴェロシティ(セ6、父ピンズ)が参戦してくる。

 エアロヴェロシティは、ニュージーランド産馬。父ピンズは、フレミントンのG1オーストラリアンギニーズの勝ち馬である。このレースは創設時も現在も距離1600mだが、1998年から3年間だけ距離2000mで行われており、ピンズは2000mだった2000年の勝ち馬だ。代表産駒は、2010/2011年シーズンと、2011年/2012シーズンの香港年度代表馬アンビシャスドラゴンである。

 母エクソダスもニュージーランド産馬で、現役時代は9戦し1600m戦に1勝。その3番仔となるのがエアロヴェロシティだ。

 3歳秋に祖国ニュージーランドで、ネゾソウォリアーという競走名でデビュー。アワプニ競馬場のメイドン(芝1300m)を制し、緒戦勝ちを果たしている。

 4歳シ−ズンの後半から香港に移籍。管理するのは、本馬と同じニュージーランド出身で、祖国でチャンピオントレーナーとなった後、2004年から香港を拠点としているポール・オサリヴァン調教師だ。日本では、父と連名で管理したホーリックスで1989年のジャパンCを制したことで知られている。香港では、2007年の香港ダービー勝ち馬ヴァイタルキング、2010年のスチュワーズC勝ち馬フェローシップらを手掛けている。

 移籍初年度は、クラス3で4戦し、2着は2度あったものの、未勝利に終わったエアロヴェロシティだったが、2シーズンとなった2013年/2014年は、ようやく香港の環境と競馬スタイルに慣れたのか、見違えるような快進撃を開始。シーズン2戦目のクラス3のハンデ戦(芝1200m)で6戦目にして香港初勝利を挙げると、トントン拍子で連勝街道を歩みはじめ、昨年5月25日に行われた香港G3シャティンヴァーズ(芝1200m)で、53.5キロという軽ハンデにも恵まれ、接戦を制して優勝し重賞初挑戦初制覇を達成。57.15キロを背負っての出走となった次走、香港G3プレミアC(芝1400m)で2着に敗れ、連勝は5で止まったものの、2014年/2015年シーズンの香港短距離路線を担う1頭と期待されることになった。

 その期待通り、今季初戦となった香港G2プレミアボウル(芝1200m)を快勝し、2度目の重賞制覇を果たしたものの、試練が待っていたのが、1番人気での出走となった次走、G2ジョッキークラブスプリント(芝1200m)だった。

 1番枠からの発走となったエアロヴェロシティは、馬群中団の内埒沿いを追走。狭いところに閉じ込められてしまい、道中も走り辛そうにしていたのだが、直線に向いて内を突こうとした時、外から寄られて埒との間に挟まれ弾かれる局面が2度にわたってあって、14頭立ての14着に惨敗することになったのだ。

 深いブリンカーを着けて出走していることからもわかるように、元来が気性的に安定している馬ではないだけに、この敗戦が精神的なダメージとして尾を引くことがないかと、おおいに危惧された中で迎えたのが、昨年暮れのG1香港スプリント(芝1200m)だった。

 前哨戦のG2ジョッキークラブスプリントの勝ち馬ピニアフォビアに1番人気の座を譲り、2番人気での出走となったエアロヴェロシティは、バドック周回の列からイの一番に離れて先に馬場入りし、ゲートインは一番最後という、打てる手は打ってスタートを迎えることになった。

 おそらくは、当初から決めてかかっていたのだろう。ゲートが開くや、鞍上ザック・パートンが手綱をしごいてハナに立つという競馬となった。オープニングクオーターが23秒36、半マイル通過が45秒67というペースで逃げたエアロヴェロシティは、直線に向くとまもなく、豪州から遠征してきたバッファリングに並ばれて、早くも万事休すかという局面を迎えたが、そこから粘り腰を発揮。バッファリングの追撃を退けて再び先頭に立つと、残り200mを切って伸びてきたピニアフォビアの末脚を3/4馬身差封じ、見事に国際G1初制覇を果たすことになった。

 2月15日に行われた香港G1チェアマンズスプリントプライズ(芝1200m)は、マイル路線から転じてきた強豪ゴールドファンの2着に敗れたが、目標にされた上での短頭差負けで、能力の高さは充分に見せた競馬となった。

 香港短距離界は、フェアリーキングプローン、サイレントウィットネス、セイクリッドキングダムらが君臨し、世界的に見ても水準が高く層も厚かった時代を経た後、少しの間ではあったが、上位陣の層がやや薄くなった時代があった。しかしここへ来て、前出のピニアフォビアのような若手の台頭もあって、再び世界でもトップクラスの陣容を取り戻している。例えば、2014年のワールドベストホースランキングの芝短距離部門を見ると、香港調教馬は3頭がトップ10にランクイン。同様に3頭を送り込んだ豪州とともに、この路線の「最強地区」となっている。

 その、トップ10入りした3頭の香港調教馬のうち1頭が、レイティング118を獲得したエアロヴェロシティである。この部門における日本馬最上位は、昨年の高松宮記念を制した際にレイティング117を獲得したコパノリチャードだから、エアロヴェロシティの方が1ポンド上というのが、公式ハンディキャッパーの評価である。

 実際に香港調教馬は、2010年のアルクオーツスプリントをジョイアンドファンが、2012年のG1キングズスタンドSをリトルブリッジが、2013年と2014年のシンガポール国際スプリントをラッキーナインが、そして2014年のゴールデンシャヒーンをスターリングシティ、アルクオーツスプリントをアンバースカイが制しているように、短距離路線の国際競走できっちり結果を出している。

 気掛かりと言えばまずは、中京の左回りコースをどうこなすか、だ。ニュージーランドで走った1戦は左回りコースで、従って経験が全くないわけではないのだが、香港移籍後は右回りしか走っておらず、コーナーワークが大きな課題となる。

 更に、前述したように気性面が安定した馬ではないだけに、アウェイでの戦いにどう対応するかもポイントとなりそうだ。

 手綱をとるのは、昨シ−ズンからこの馬の主戦を務めているザック・パートンである。香港における昨シーズンのリーディングジョッキーで、2012年のワールドスーパージョッキーズシリーズの優勝騎手でもあり、また、昨秋にアドマイヤラクティに騎乗しG1コーフィールドCを制したことでも知られる腕利きだ。

 体調が万全で、スムーズな競馬が出来れば、日本馬にとっては侮りがたい存在となりうる馬である。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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