我が成す事は我のみぞ知る

2015年05月07日(木) 12:00


ゴールドシップの天皇賞勝利に

 世間はきびしくもあり、暖かくもある。いい考えを持って努力を重ねてもなかなか認められないかと思えば、思わぬ温もりを味わうこともある。だから、なるべくボジティヴな方が運が向いてくるように思える。如何なる事態にも動ぜず、なんとかなる、なんとかしようと、そうありたいものだ。かの坂本龍馬は「世の人は我を何とも言わば言え」と世間を突き放し、我が道を進んでいった。強い志(こころざし)があるからだが、その龍馬は「我が成す事は我のみぞ知る」と名言ものこしている。これは、本当に強いものでなければ言えないことばだ。この「我が成す事は我のみぞ知る」をゴールドシップに見た。

 どう戦うのかやってみなければ分からない。強いことは誰もが承知している。なのに、やってみなければ分からない。当然、世間は戸惑う。厳しい目を向けることもある。その一方で、人間に反抗するゴールドシップのこころの内に思いを寄せるものも出てくる。今度はどうだろうか。好き嫌いを超越した、いつも気になる存在なのだが、見る側には、どうすることもできない。ゴールドシップ自身が、その瞬間どう出るかだけなのだから。そしてその気分に寄り添ったのが横山典弘騎手だ。走る方向にどう集中させるか。今回は、いつものお願いするだけでなく、少しゲキを飛ばしたと語っていたが、ここまで何度もコミュニケーションを取った成果が出たということだろう。ゲートインにかなり手間取っていたが、あのときも横山騎手はゴールドシップの「我が成す事は我のみぞ知る」を尊重していたのだ。「一筋縄ではいかないのが彼らしい」、「スタートして行けたら行こうと思ったが、やっぱり行けなかった」と、すべてを受け入れていた状況が伝わってくる。ゴールドシップには、この上ないパートナーであったことが分かる。

 動物は人の気持が分かると言うが、人気で敗れたキズナのこころの内はどうだったのだろう。最善を尽した人の思いをよそに、一度骨折した脚を気遣って自分で加減していたように思えてならない。この情況にあって龍馬のもうひとつのことば、「おれは落胆するよりも、次の策を考えるほうの人間だ」を添えておきたい。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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