2015年10月26日(月) 12:00
▲須田鷹雄さんの推薦は『競馬への望郷』
寺山修司の著作から、一冊だけを選ぶのは難しい。今回は「ファンの世界」「競走馬」「騎手」と描く対象が多岐にわたっているということで『競馬への望郷』を選んだ。
昭和の競馬ファンは、多くが寺山修司に憧れたものだった。表現手法を真似してみたり、登場人物になったつもりで馬券を買い、なにかを呟いてみたり……。
しかしいま改めて読んだとき、安易なエピゴーネンになるだけではいけなかったのだということに気付かされる。
感じるのは「揺るぐことのない寺山修司の視点」ということだ。騎手やスターホースが対象でも媚びることや持ち上げることはなく、ファンや名もなき馬の世界を描き、あるいは創作するときに見下すこともない。反対に、斜に構えて前者をくさしたり、後者に過剰な愛や同情を寄せることもない。
すべての基準は、寺山からどう見え、彼がどう感じたかということだ。それは動じない価値観を持たなければできないことである。
自分は己の目で競馬を見る力を持っているか。競馬を語るだけの自我を持っているか。そう自問せざるをえないほど、寺山の視点は揺るがず競馬を見つめている。
■タイトル:競馬への望郷
■著者:寺山修司
■出版社:角川文庫
■発行日:1992年3月
■価格:絶版(中古あり)
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