2015年11月02日(月) 12:00
▲野元賢一さんの推薦は『競馬解体新書』
日本で競馬ブームが絶頂を迎えつつあった1989年春、競馬評論で一世を風靡したタレント、大橋巨泉は評論の筆を折った。前年秋の天皇賞の際、筆者も中学時代から愛聴していたニッポン放送のラジオ解説で起きた一種の舌禍事件が発端だった。
『競馬解体新書』上下巻は89年末の刊行で、83-88年にサンケイスポーツ紙上で連載されたコラム「巨泉の蹄言」を整理・収録した。週1本の連載という性格上、時々の競馬界の話題が主に扱われ、ファン歴が長くても、当時の事情を知らない人にはハードルが高い作品なのは確かだ。
だが、読み進めばわかる通り、80年代の競馬時評集でありながら、内容が全く古びていない。今日、トレセン入厩から10日で出走する馬は珍しくないが、こうした方式が注目を集めたのは7冠馬シンボリルドルフが、美浦と外部牧場を往復しつつ、レースに臨んだことが契機だった。
ともに鬼籍に入った和田共弘、野平祐二両氏は後に、同馬を巡る深刻な対立の末にケンカ別れとなる。その背後にある日本の厩舎問題の根深さを、著者は何週もかけて丁寧に読み解く。ノーザンファームの独り勝ちが続き、内厩制の空洞化が著しい今日の競馬を見る上でも示唆に富んでいる。
今年の菊花賞は 200万円の追加登録料を支払って参戦したキタサンブラックが優勝したが、登録料を引き上げる競馬法改正が実現したのは91年。実はこの問題も、著者が筆を折るまで、一貫して叫び続けた課題だった。
■タイトル:競馬解体新書―サラブレッドとファンのために(上下巻)
■著者:大橋巨泉
■出版社:ミデアム出版社
■発行日:1989年12月
■価格:1677円(税込)
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