ジャパンカップの魅力

2015年11月28日(土) 12:00


 6、2、4、3、5、8、4、5、3、3。過去10年のジャパンカップに出走した外国馬の数(出走取消は含まず)である。

 今年は4頭。4頭とも今年本国のGIを勝っており、例年以上に「本気度」の高い陣営も見受けられるが、やはり寂しい。

 招待を受諾する馬が少なくなった理由は、巷間言われているように、ひとつは日本馬が強くなり、欧米の強豪が勝ち目のない戦いを避けるようになったからか。もうひとつは、「勝ち目のない戦い」につながる部分で、日本の芝が硬く、時計の速い決着になる高速馬場だから。そしてもうひとつは、すぐ近くの香港で、現在は中1週という間隔で、同じ芝2400mの香港ヴァーズを含む、バリエーション豊かな国際招待レースがあり、そちらに矛先を向けてしまうからだろう。

 日本の高速馬場に対しては、故障につながりやすいということで、かねてより批判がある。が、個人的には、「自国のフィールドで戦う限り、ほかのどこの国にも負けない」という環境を目指してきたことは、けっして悪くなかった、というより、正しかったと私は思っている。問題は今後で、上がり33秒台はおろか、32秒台の脚を使う馬がしょっちゅう出てくるのは、やはり特殊すぎる。「日本の馬場で勝てるよう鍛練された馬は、そのまま世界中の舞台で力を発揮できる」という方向に進んでもらうことを願う。

 香港国際レースに関しては、スプリンターズステークスや天皇賞・秋、マイルチャンピオンシップなどで好走した日本馬の陣営でさえ、普通に「次」の候補に加えるようになった。ジャパンカップのことだけを考えると、時期をズラしてくれと言いたくなってくるが、そんな勝手なことは言えない状況だ。

 では、百歩譲って、ジャパンカップの施行時期を変えることはできるか。「世界に通用する強い馬づくり」を合言葉に1981年に創設されたジャパンカップが11月下旬になったのは、10月上旬の凱旋門賞に出走した馬も出やすいように、との考えによるものだった。それにより、この時期に行われていた天皇賞・秋を10月下旬に繰り上げ、一度勝った馬は出走できないという勝ち抜け制を廃止。3年後の84年に距離を2000mに短縮し、天皇賞・秋−ジャパンカップ−有馬記念というローテーションに連続性を持たせた。

 この連続性を保つためにはどのレースも動かせないし、仮にジャパンカップの施行時期を早めたとしても、欧米から極東まで遠距離輸送されてきた馬が、ハードなGIを2戦しようとするだろうか。特に、ヨーロッパの馬にしてみると、今年行われた野球のプレミア12同様、シーズンが終わってからのガチンコ勝負になるので、心身への負担が相当大きくなる。

 やはり、ジャパンカップ単体での魅力をアップさせるしかないようだ。

 90年代なかごろから2000年代初めにかけて、欧米の競馬場に行くと、「今年のジャパンカップにはどんな日本馬が出るんだ?」などと関係者によく訊かれた。間違いなく、彼らにとって、ジャパンカップは「行ってみたい憧れのレース」だった。アメリカ西海岸のサンタアニタ競馬場の関係者が、武豊騎手が着ていたジャパンカップのブルゾンをほしがって、あやうく脱がせそうになったこともあったほどだ。

 今年から優勝賞金が3億円に増額されたが、それが招待馬の増加に直結しなかったのは、「どうせ日本馬が持って行くんだろう」と思われたからか。2着でも1億2000万円とほかのGIレベルで、3着でも7500万円だから2歳GIより高いのだが……。

 そんなことを考えながら馬柱を眺めていて、ふと気づいた。トリップトゥパリス以外の外国馬は、ほとんど乗り替わりなく同じ騎手を背に走っている。ナイトフラワーはアンドレアシュ・シュタルケ騎手しか乗っていない。契約の問題もあるのかもしれないが、実戦でも同じチームのメンバーで育てている、ということがデータから伝わってくる。

 かつては日本馬もそうだった。が、今年のジャパンカップ出走馬を見ると、だいぶ事情が変わっていることがわかる。ミッキークイーンは浜中俊騎手がデビューからずっと騎乗しているが、多くの馬がたびたび乗り替わられている。

 それも競争原理によるものだから仕方がないのかもしれないが、何か大切なものを失っているような気もして、ため息が出そうになる。

 懐古主義をよしとするつもりはないが、異国のGI馬の馬柱をじっくり眺めるという「ジャパンカップならではの時間」が気づかせてくれたことだ。

 日本馬のレベルは世界に「追いついた」のかもしれないが、「追い越した」というところまでは来ていない。まだまだ外から学ぶべきことがたくさんある。

 ……といった話をしたり、ゴールドシップは今回走るか、それとも走らないかを考えていたら徹夜になりそうだ。

 35回目のジャパンカップはどんなレースになるか、注目したい。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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