2016年07月22日(金) 18:00
◆ファンサービスの形として
近年では競馬場でのファンサービスもさまざまに趣向がこらされ、盛んに行われるようになったが、その中でもファンへのアピール度が高いと思われるのが、騎手の生の声を届けるということではないか。
表彰式での勝利騎手インタビューは以前からどの競馬場でも行われているが、まだいくつかの競馬場でしか行われていないのが、レース前の騎手の声を伝えるということ。
たとえば高知では、もう10年以上も前から開催日の第1レースがはじまる前、2人の騎手が順に出演し、実況の橋口浩二アナウンサーとのトーク形式で近況などを語るコーナーがある。当初は前例がないこととして、裁決などの了解を得るのが大変だったようだ。
一方で、とある競馬場では、「すでに高知がやっているのだから」と、同じような企画を始めようとしたところ、主催者上層部の許可が出なかったという話も聞いたことがある。終わったレースについて話すのはいいが、レースの前に騎手が話をするのはまかりならん、ということなのだろう。“公正競馬”を旗印に掲げる頭の堅い主催者も少なくない。
そしてばんえい競馬で今シーズンから新たに始まったのが、第1レースの勝利騎手をスタジオに呼んで、馬場状態などの感触を聞くというもの。
ばんえい競馬は平地競馬以上に馬場状態がレースを左右する。ご存知の方も多いと思うが、それゆえばんえい競馬では、馬場状態が水分量0.1%単位で発表される。一般的に、水分量が多い湿った馬場になると、ソリとの摩擦が少なくなって走破タイムが速くなると言われる。スピードが出る馬場が得意な馬もいるし、逆に乾いた時計のかかる馬場で力を発揮する馬もいる、ということが予想の重要なポイントとなる。
さらに専門紙のトラックマンからよく聞くのだが、単純に水分量が上がれば時計が速くなるということでもないらしい。たとえ同じ水分量でもそのときに雨や雪が降っているかいないかでタイムは大きく変わるし、気温の変化によっても違いがあるという。特に冬場は0度前後の気温で、馬場が凍結しているかどうかでも大きく変わってくる(実際にはロードヒーティングが馬場に埋め込まれているので、完全に凍ってしまうことはないが)。
それほど馬場状態がレースに与える影響が大きいばんえい競馬だけに、実際にレースに騎乗したばかりの騎手に、その感触を語ってもらうという企画はすばらしいファンサービスだと思うし、またそれを許可した主催者も英断だったと思う。
レース前の関係者インタビューは、今後も可能な範囲で広げていってほしいが、できそうで、まだ日本ではどこでもやっていないことがある。欧米の大レースではよく見るのだが、レース直前のパドックで有力馬の調教師や馬主に話を聞くということ。中央競馬のGIのテレビ中継などでは、キャスターがパドックの中から雰囲気を伝えるということはたまにあるが、その場で関係者に話を聞くということは、まだやったことがないのでないだろうか。
地方競馬のどこかの主催者で、まずはやってみませんか?それがJBCだったりしたら、なおすばらしい。特に日本は、パドックで馬が周回する時間が長いだけに可能と思う。
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斎藤修
1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。
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