2017年03月02日(木) 12:00
◆あるがままをひたすら素直に見続ける
ゴッホの「花咲くアーモンドの枝」を思い浮かべ、その白い花が春風に揺れている美眺に身を置き、花というものが、語る言葉を持たない分だけ、伝えてくれる喜びを感じていたと、「旅行鞄にはなびら」で伊集院静は書いている。そして、花の違いはあっても、いや花でなくとも、私たちが素直に何かを見つめていれば、小さくとも至福の時は訪れるのではないだろうかと結んでいた。この小さくとも至福の時の訪れを、私たちは望んでいるのであって、決して大それたことを願ってはいないのではないか。
競馬にだって同じことが言える。もしかしたらと一頭の馬を見つめ続けていくうちに、思いもかけず至福の時を迎える、それは、ひたすらただ素直にでなくては訪れることはない。そんな偶然と思えることが競馬にはあるから面白い。そして、競馬に登場させる立場にある側にも言える。多くが気がつかなくとも、当事者はひたすら、もしかしたらと努力、工夫を続けている。伏兵は、こうして陽の目を見て、至福の時を見続けたものにもたらしてくれるのだ。
中山記念を勝ったネオリアリズムは、香港マイルでの大敗から少し評価を下げたものがいた。きゅう舎では、検疫に入ってからイライラし、カイバ食いが落ちて順調ではなかったと見ていて、今回はその点の解消をはかったところ、15キロ馬体が増えて思った以上の成長をみたと述べていた。札幌記念でモーリスを破ったときは逃げ切りだったが、初めて手綱を取ったデムーロ騎手は、3番手でスローペースを我慢させて、ロングスパートを決めて勝利していた。この好騎乗が馬にも力をつけさせることになるから、選択肢の広がった今後が楽しみになる。
阪急杯を勝ったトーキングドラムは7歳での重賞初挑戦での勝利。瞬発力をどう生かすか、前走から手綱を取っている幸英明騎手はその点にしぼっての勝利だった。骨の発育が悪く、3歳春から2年近く休んだ馬が、あるがままをひたすら素直に見続けてもらうことで、至福の時をもたらしたのだった。語る言葉を持たない馬だからこそ、その心を察し、素直に見続けることが大切だ。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。
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