皮を斬らせて肉を斬り、肉を斬らせて骨を断つ

2017年05月04日(木) 12:00


◆自分を捨てる覚悟があったからこそ道はひらかれていく

 思い通りのレース運び、完璧な勝利を見せてくれた。武豊騎手の思いを背負っているキタサンブラックは、それが自らの思いそのままであるかのように動いている。人馬一体の爽快なプレイだった。これこそ、勝負の極意のひとつ「皮を斬らせて肉を斬り、肉を斬らせて骨を断つ」という剣の道で言われてきた心がけ、それを具現していた。

 どうしたら勝機を見い出せるか。自分を捨てる覚悟があったからこそ、道はひらかれていく。何かにつけてこの心がけは人を救ってきたが、どうしたらいいかは、やはりその人間の経験と知恵からくる。そこに至る騎手の思いと、それを受け止める馬の力、それが合致した戦いぶりだったのだ。

 ペースを緩めることなくはるか先を行くヤマカツライデン、それを2番手で見ているキタサンブラックは、後続を意識しながら追っていく。状態は、昨春勝ったときよりもさらに良くなっているという自信から、今年は少し速いペースでも大丈夫とのぞんでいた。それを追う後続馬は、あくまでも自分のペースでと思っていても、そうはいかない。少しは追いかけることになる。前半の千米が58秒3で、二千米通過が1分59秒7、三千二百米のペースとしては速い。走る馬全てにとってダメージがある。こういう情況を望む馬は、当然勝利に近いことになっていく。

 キタサンブラックと武豊騎手は、自分の作るペースで他により多くの負荷を与えていた。これが出来る馬になっていたからこその、完璧な勝利を呼び込んだのだ。「丈夫な馬だなと思う。しっかり走ってくれるし、壊れない。距離が二千米だろうと三千二百米だろうと同じように走ってくれる。マイルでも走りそう。体は大きいが、その大きさは感じない。走りが軽い」と武騎手は言っているが、どれだけ信頼が厚いかが伝わってくる言葉だ。

 自らが乗ってマークしたディープインパクトのレコードを更新し、これ以上のことはない。史上4頭目の天皇賞・春連覇のこの先に、まだ大きな可能性を秘めている。さて、この牙城を崩すにはどんな手があるのか。他陣営にとっての課題だ。しばらくは、一番気になっていく。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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