日刊スポーツの柏山記者から、パラリンピックの応援記事の取材を受けました!

2017年08月15日(火) 18:00

柏山さんと1

いつもとは反対に、今回は自分が取材される立場に…!


中尾正調教師は今でも僕の調教師です

 夏競馬も終盤に入ってきましたね。お盆の休日は、ご先祖様に会いに行かれましたか?

 僕は、落馬事故で意識不明の時、大好きだった祖父に天国から「かつよし!勝義」と何度も呼ばれました。必死にもがいているといつの間にか母の声の「勝義!」に代わり、目が覚めました(怖い母を思い浮かべたのかも?)。もうちょっとで「あの世」とかへ行ってるところでした(爆笑)。

 今では笑い話になっていますが、当時は不気味な思いをしましたね。「植物状態を覚悟するように!」とドクターから宣告されていたそうなので、我ながらよくこの世に生還できたと思います。稲川さんの怪談話ではありませんよ。

 そして今はまた馬に触れ、取材もさせていただくことができて、最高に幸せです。また馬に乗れるとは思ってもなかったけど僕には馬しかない。馬に勇気とエネルギーをもらって生きています。そしてパラリンピックの話が話題になった時、僕は「ここへ行くしかない!」と思いました。

 障害ジャンプ騎手から障がい者馬術大会に参加するようになり、最大のライバル「僕自身の脳」と戦っています。体の障害は色々ありますが何とか歩ける、話せる、笑うこともできるが、人の名前や色んなことを忘れてしまう。というより覚えられません。記憶にインプットされないんです。

 馬場馬術は経路を覚えることが必要です。先日も御殿場で東京大会に参加し、チームテストの経路は完璧に覚えて「やった!」と思ったのもつかの間。チャンピオンシップの競技が始まり、馬も調子よく動いてくれてこの調子…と思った瞬間、カランカラン…!

 ジャッジから経路違反で注意を受けました。すぐに経路修正をすればよかったのですが脳が真っ白になり、失権してしまいました。ポイントも良かっただけに、悔しかったです。コーチと復習を重ねて懸命に覚えたはずなのに、あーあーやってしまった…。「勝ちゃんが成功することが私への最高のプレゼントなんだよ」と言っていたコーチの悔しがる顔を見た時、胸が痛みました。

 10月と11月の全国障がい者馬術大会に向けて、お盆休み返上で特訓です。

***

 先日、日刊スポーツの柏山さんから、2020年パラリンピックの応援記事のための取材をしていただきました。

柏山 僕はまだ新人なのでよく知らなかったのですが、常石さんと言えば中山グランドジャンプのビッグテーストですよね。

ビッグテースト

中山グランドJを制したビッグテースト。現在は長野県の土屋乗馬クラブで乗馬に

常石 あのレースは、色んな意味でとても大きかったです。勝つ自信はあったけど、勝てるとは思ってなかったですから。一番人気の中山大障害覇者・ギルデッドエージが強かったですからね。最後の直線で2頭の争いになりました。僕の馬はあまり人気がなかったのでかえって気楽に乗れたのかな?

 中尾正調教師は目の前でジャンプレースを見るのは耐えられないと、息子さんの秀正先生と臨みました。勝った瞬間は冷静でした。跳びも大きく力の強い馬だったので力を出してくれるという自信はありましたね。

 調教師に電話をかけると「よーやった!よーやった!」と。そばでママ(奥様)が涙する声も聞こえると、僕も涙があふれてきました。その時改めて「勝ったんだ!」と思い、感無量でした。今でも調教師のお宅に訪問した時、話題になってよく話します。お宅にお邪魔するたびDVDを見たりしています。引退されてからも1か月に1度くらいはお邪魔し、馬の話をしています。

 今でも僕の調教師ですよ。色んなことをアドバイスしてもらっています。ママも気遣ってくれて、先日も誕生日プレゼントをいただきました。僕のことをよく知ってくれているので好みも分かるんですね。感謝しています。

 落馬の時も2か月くらい声が出なかったんですが、初めて話したのがママからの電話でした.「つねちゃん誕生日やな。プレゼント何が欲しいの?」と聞かれた僕は「バッシュ、メロン」と言ったそうです。ママは「靴を履いて歩きたいんだなー」と察してくれてバスケットシューズ(スニーカー)と、冷やして食べやすい大きさにカットしたメロンを、栗東から調教師が持ってきてくれました。

 靴を履かせてもらった瞬間、100万ドルの笑顔になったそうです(ちょっと言いすぎか?)。まだ首も腰も座ってなくて歩くことすらできませんでしたが、嬉しかったようです。僕は全く記憶にありませんが調教師が「ええ顔やったぜ!」と話してくれます。

柏山 勝利の喜びは大きいですが、いつも危険と隣り合わせなんですね。障害騎手は大変ですね。

常石 障害だけではなく競馬のレースは、どれも命がけで真剣勝負をしています。

柏山 そうなんですね。取材の時、僕たちも真剣に質問などをするように心がけます。ビッグテーストが平場から障害レースへ向かう時、調教もされたんですか?

常石 障害馬に育てる時は騎手が自ら手掛けることが多いですが、この馬は馬体も大きかったし僕自身も障害レースに挑戦したばかりだったので、那須乗馬トレーニングファームの広田龍馬さんが丸太1本跨ぐところから丁寧に教えてくれました。オリンピック選手なんですよ、凄いでしょう。最近乗馬の大会でよくお会いしますが今でも現役で障害レースに出場しています。最高の高さを飛んでいますね。最初にきちんと教え込むことが大事なんですね。

柏山 すごい方なんですね。一度飛越する様子を見てみたいですね。

常石 テーストがここで練習していたことをすっかり忘れてたんですが、広田さんとはご縁があるんですよ。落馬してから4年目に、馬場馬術の2級ライセンスを取るために広田さんを訪ねて、ここで2級ライセンスをとることができました。テーストが勝った時も、僕はお礼に訪問していたことが分かって、驚きました。記憶障害がここでも邪魔していたんですね。

柏山 馬つながりでいいことへつながっていくのは素晴らしいですね。僕も競馬の取材記者になって幅が広がったように思います。馬つながりっていいですね。常石さんとも話すことができて良かったです。

常石 僕に注目していただいて、感謝です。

柏山 無事にバトンを渡すことができて良かったです。また次の方へつないでいきたいと思います。(取材した週は)ちょうど関屋記念ですよね。このレースも忘れられないレースだそうですね。

柏山さんと2

柏山さん「バトンを渡すことができて良かったです。また次の方へつないでいきたいと思います」

柏山さんと3

取材のバトンを受け取りました!

常石 オースミコスモは新馬から乗せていただいていたので、勝ちたい気持ちが強かったですね。のちのGI馬アドマイヤマックスに勝ったからちょっとだけ誇りに思っています(苦笑)。僕の数少ない重賞勝ちに貢献してくれました。でも、過去にこだわらないで前を向いていきます。こうして取材していただき、ありがとうございます。

柏山 過去の栄光があって、その上にさらなる栄誉を積み上げていってください。楽しみにしています。ありがとうございました。

常石 ありがとうございました。いつもとは反対に自分に取材していただいて、感謝です。

 この記事は、東京の日刊スポーツ紙に掲載予定です。9月初旬の予定です。

***

 今週は僕自身の取材の話になり、ファンの皆様には申し訳なかったです。次回はトレセンのビッグニュースをお届けします。お楽しみにしてください。夏競馬を熱く楽しんでくださいね、凱旋門賞も近くなり話題も豊富になってきましたよー。

つねかつこと常石勝義でした。

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常石勝義

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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