【年末年始は地方競馬】ライター5名が厳選!2018年は“このジョッキー”が濃い!

2018年01月05日(金) 18:01

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▲NAR特設サイト『年末年始は、競馬が、濃い。』との連動コラム

『年末年始は、競馬が、濃い。』をコンセプトに、NAR(地方競馬全国協会)とコラボコラムを展開中! JRA×地方ジョッキー対談に続く第3弾は、地方競馬有識者5名が2018年に最注目する地方馬&ジョッキーを紹介。若手・ベテラン問わず、それぞれの独自の視点から、各1頭・1名を挙げ、2018年に注目すべき理由と飛躍への期待を語ります。

(文:浅野靖典、井上オークス、大恵陽子、小堺翔太、斎藤修)


“吉原寛人(金沢)”が濃い!

浅野靖典

幅広い競馬の知識を活かし、全国の競馬場や、生産牧場・育成牧場を取材。グリーンチャンネル『競馬ワンダラー』シリーズでもお馴染み。

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▲金沢所属の吉原寛人騎手(写真:浅野靖典)

 最近の地方競馬の騎手には「パイオニア」と呼べる人が2人いる。1人は宇都宮、足利競馬(栃木)の廃止後に "フリー騎手"として期間限定騎乗を続けながら全国を巡った内田利雄騎手。もう1人は、地元以外の重賞に数多く騎乗している吉原寛人騎手である。

 重賞に他地区の騎手が騎乗できるようになったのは2006年。しかし制度導入当初は利用例がほとんどなかった。それは当然のことで、騎手を呼ぶには費用がかかる。また、地元所属騎手の気持ちを慮る面もあったことだろう。

 しかし吉原騎手は、その実力でホースマンたちの心の壁を崩していった。

 最初のきっかけは、2011年の南関東での期間限定騎乗。その年にある程度の成績を残したことで、翌年以降も冬は南関東で2か月を過ごすことが恒例となった。その積み重ねは信頼へとつながり、2014年の東京ダービー制覇で結実。さらに2015年は南関東の名手たちを抑え、期間終了までリーディングを守るという快挙を成し遂げた。2016年はダービーウイークの全6戦に参戦。吉原騎手が確立したビジネスモデルは、地方競馬の騎手にとっての大きなモチベーションにつながっている。

 そして2017年にはJRAの重賞をも制覇。金沢競馬でのリーディングは7年連続で途切れたが、吉原騎手が輝く舞台は既存の枠を越えた場所にこそあるのだろう。

 私も彼の騎乗には何度か“巧いなあ”と唸らされたことがある。その源は卓越したセンス。そこに経験値が加わったことで、強靭さがさらに増している感がある。

“鈴木祐(岩手)”が濃い!

井上オークス

旅打ち競馬ライター。国内外の競馬場を転戦しながら、「優駿」「スポニチ」「うまレタ―」等に寄稿している。

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▲岩手所属の鈴木祐騎手(写真:井上オークス)

 2016年4月。水沢競馬場で行われた新人騎手紹介セレモニーで、客席がどよめいた。マルコメ頭の鈴木祐騎手が、こんな宣言をぶちかましたからだ。

「1年目の目標は、50勝です!」

 ず、ずいぶん大きく出たね。若いっていいなあ。と、謎の上から目線で、ビッグマウス君のデビュー戦を見ていると……。

 鈴木騎手はミエノコマンダー(8頭立て7番人気)で、初騎乗・初勝利を達成したのである。道中はポツンと離れた5番手のラチ沿いでじっくり脚を溜め、直線は狭い隙間を割って1着。新人らしからぬ騎乗に、衝撃を受けた。

 厩舎関係者いわく、経験の浅い乗り手が調教で馬にもて遊ばれる光景は“新人あるある”なのに、鈴木騎手はすんなり乗りこなしていて、デビュー前から「あの子は乗れる」と評判になっていたそうだ。その後も度々穴を開け、1年目は29勝。目標には届かなかったが、優秀な成績である。そして2年目は、年間50勝超え。夏に盛岡競馬場へ乗りに来た内田博幸騎手から「上手い騎手の騎乗をしっかり見て、研究しろよ」というアドバイスをもらい、実行しているうちに、勝ち星が伸びたという。ヤングジョッキーズシリーズのトライアルラウンドでも活躍し、北海道・東北ブロックで1位。岩手代表として、昨年末に大井と中山で開催されたファイナルラウンドに進出。超人気薄を掲示板に持ってくるなどして、「岩手の鈴木」をアピールした(総合6位)。

「自分には技術がないので、馬を信じて頑張ります!」

 今はとっても謙虚な鈴木騎手。いつかまた、ビッグマウスに驚いてみたい。リーディング奪取宣言、待ってます。

“下原理(園田)”が濃い!

大恵陽子

競馬アナウンサー。競馬番組のほか、イベントMCも務める。『netkeiba.com』や『優駿』、『週刊競馬ブック』でレポート記事を執筆。JRA・地方を問わず競馬歴21年。初めて行った競馬場は園田。

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▲園田所属の下原理騎手(写真:大恵陽子)

 2017年、初めて全国リーディングに輝いた下原理騎手(兵庫)はデビューした頃、師匠からこう教えられました。

「有力馬にはなかなか乗れないんだから、距離ロスなく乗って少しでも上の着順に食い込むことを考えろ」

 師匠のアドバイスを忠実に守り抜いた下原騎手はいつしか「インコースの下原」と呼ばれるようになりました。雨が降ったり、砂の補充で内外の有利不利が変わる園田競馬場。「内が重たい時は、下原騎手も外を回っている」なんて格言まで生まれたほどです。しかし、彼の下地を築いた師匠・寺嶋正勝調教師が2015年春、急逝。本当に突然のことでした。

 深い悲しみに包まれた下原騎手に有力馬を用意し、支えたのは新子雅司調教師。「俺も騎手時代には寺嶋先生にお世話になったから、今度は俺が」と下原騎手とコンビを多く組むようになり、新子厩舎は2015年に、下原騎手は2016年にそれぞれ初めて地元リーディングに輝きました。

 デビューした頃は滅多に騎乗機会に恵まれなかった有力馬にも多く跨るようになり、そういった馬ではリスク回避のため外を回る場面も見られます。しかし、根底にはインコースを大切にする気持ちが変わらずあります。

 紫に白の菱形が入った勝負服は、師匠の騎手時代の勝負服をベースにデザインされたもの。明るい声で「オサム〜!」と呼びかけると早口で喋っていた師匠が騎手時代にマークした2457勝まであと100勝弱。2018年はきっと師匠の勝利数を超えることでしょう。

“佐藤友則(笠松)”が濃い!

小堺翔太

グリーンチャンネル『中央競馬全レース中継(土曜)』キャスター。中央のみならず、全国の地方競馬場にも足を運ぶ。今年は番組の企画で全国の『ダービーシリーズ2017』を現地で観戦。

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▲笠松所属の佐藤友則騎手(写真:小堺翔太)

『ガクンと下がった事もあれば、上がった事もあって…今までで一番成長できた年かもしれない』

 一昨年、自身初の笠松リーディングを獲得し、2年連続リーディングもほぼ手中にある(12月15日現在)佐藤友則騎手。全国の競馬場へ積極的に遠征し、各地のファンにおなじみの顔は2017年をこう振り返った。

 “ガクンと下がった”―2月19日のJRA京都遠征。メインレース・斑鳩Sで騎乗したレッドアヴァンセは2番人気の有力馬。しかし、馬群に包まれる形になり、リズムを崩した。8着…チグハグな競馬に整理がつかず、その後1ヶ月程は自分がどんなレースをしていたか覚えていないという。それほどの大きな出来事だった。

 自分を見つめ直した。レースの研究を重ね、先輩はもちろん若手のレースからも刺激を受けた。基本の運動などレース前の準備、自分の体の事…見えているようで見えていなかった細かい事と徹底的に向き合った。再びJRA中京へ遠征した7月16日、フィリピンTをリッパ―ザウィンで勝利。流れに乗り、内を突く冷静な判断は自分と向き合った時間の賜物。苦悩と努力を経て、何かが吹っ切れた瞬間だった。

 秋以降は笠松のみならず名古屋でも有力馬の依頼が増え、笠松と金沢で立て続けに2歳の重賞も制覇。いいリズムが出来た。『見えなかった部分が見えてきて、いいイメージを持ってレースに臨めています。自分がやっと成長出来ている気がして、今すごく楽しい。2018年は…南関東の短期遠征にもチャレンジしたいですね』さらなる進化を遂げ、新たなステージを見つめている“笠松の顔”から今年も目が離せない。

“宮下瞳(名古屋)”が濃い!

斎藤修

グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『netkeiba.com』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。各場のB級グルメ情報も網羅する。

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▲名古屋所属の宮下瞳騎手(写真:大恵陽子)

 日本における女性騎手として最多勝利記録を更新し続けた宮下瞳騎手が引退したのは2011年のこと。1995年にデビューし、足掛け17年の現役生活で地方通算626勝、さらに約1年半の韓国での短期免許による騎乗でも56勝を挙げた。当時34歳。同じ名古屋所属の小山信行騎手(現在は引退)とは2005年に結婚していた。引退セレモニーでの「これからはひとりの女性として頑張りたいです」という言葉には、子をつくりたいという思いがあったに違いない。そして2人のお子さんに恵まれた。

 2015年11月のこと、ある東海地区の競馬の関係者から「瞳さんが来年(2016年)騎手に復帰する。騎手試験を受ける準備として厩務員をしている」という話を聞いたときには驚いた。そんなことが本当にできるのか。もし実現すれば、それはものすごいことだ、と。

 近年、世界レベルで活躍した女性のスポーツ選手が、出産を経て現役に復帰するというニュースをたびたび聞くようになった。しかし騎手は、他のほとんどのスポーツとは異なり、男女の区別がない。そして危険もともなう。引退後は、夫が騎乗していても競馬を見ることすらほとんどなくなっていたという。そうした状況での再出発だった。

 2016年8月17日に再デビューを果たし、その年は約4カ月半で24勝。40歳となった2017年は、12月13日現在で60勝、地方競馬の現役女性騎手では勝利数トップ。所属する名古屋競馬場のリーディングでは10位につけている。9月22日には、ポルタディソーニに騎乗して秋の鞍を制し、復帰後の重賞初勝利。10月24日には地方通算700勝も達成した。

 ただ復帰したというだけでなく、2人の男の子を育てながら、引退前と変わらぬ活躍を続けている。女性騎手第一人者の座は、まだまだ譲れない。

(文中一部敬称略)

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