タイトルホルダーがズラリ ネーハイシーザーと暮らすトーシンブリザードら

2017年12月26日(火) 18:00

第二のストーリー

▲ネーハイシーザーとともに暮らす仲間たちを紹介(提供:荒木牧場)

戦後最多となる通算43勝を挙げた馬も在籍

 ネーハイシーザー(セン27)が暮らす荒木牧場には、現在、ブライアンズロマン(牡26)、トーシンブリザード(牡19)、エスケープハッチ(セン17)、キクノスパンカー(セン26)、そして種牡馬のオリオンザサンクス(牡21)と6頭の引退競走馬がいる。

 ブライアンズロマンは、1991年6月2日に北海道静内町(現・新ひだか町)の大典牧場に生まれた。父はブライアンズタイム、母ダイロマン、その父ブレイヴエストローマンという血統だ。ブライアンズタイム産駒は芝ダート問わず走り、三冠馬ナリタブライアンなど数々の名馬を送り出してきた。そのナリタブライアンは、ブライアンズロマンと同じ年の生まれでもある。

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▲宇都宮競馬を主戦場に通算43勝を挙げたブライアンズロマン(提供:荒木牧場)

 ブライアンズロマンが競走馬生活を送ったのは栃木県の宇都宮競馬場。脚元の不安を抱えながら、3歳(旧馬齢表記)でデビュー以来、ミスターピンクこと内田利雄騎手が1戦を除くすべてのレースで手綱を取り、10歳(旧馬齢表記)まで走り続けた。戦後日本でのサラブレッド最多勝記録となる43勝を挙げているが、そのうちワイルドブラスターらJRA勢をおさえた1998年の交流重賞・さくらんぼ記念(GIII)を含む重賞17勝は、重賞勝利数日本2位タイ記録でもある。

 競走馬生活にピリオドを打ったのちは、新冠町にある太平洋ナショナルスタッドで種牡馬入りしたが、2002年11頭、2003年13頭、2004年15頭、2005年8頭、2006年は2頭と種付け頭数が思うように伸びず、2007年8月に用途変更となった。

 ブライアンズロマンは、今、ブライアンズロマンの会の支えのもと荒木牧場で第三の馬生を送っている。ブライアンズロマンの現役時代を知らなかった1人の女性が、同馬の素晴らしさを知り、イグレット軽種馬フォスターペアレントの会(現NPO法人引退馬協会)のサポートを受けて立ち上げた会で、現在も月額1口3000円で会員を募集している。

 ファンの支援のもと余生を過ごすブライアンズロマンも、年が明ければ27歳となる。

「放牧中はそうでもないのですが、年齢の割にはヤンチャな面があって、収牧する時にバタバタするところがありますね。下が滑る時期は危ないので、滑るからバタバタするなーとか言いながら曳いています。ただ歯が弱ってきているので、人参は1本のままでは食べられないので、薄くスライスしています」

 トーシンブリザードは、1998年5月15日生まれ。父はデュラブ、母ユーワトップレディ、母父にブレイヴエストローマンという血統で、浦河町の村中一英さんの生産馬だ。船橋の佐藤賢二厩舎の管理馬としてデビューし、全日本3歳優駿を7番人気で優勝。函館3歳S(GIII)勝ちのマイネルジャパンやのちにダービーグランプリを制したムガムチュウらの中央馬や、川崎競馬のロイヤルエンデバーを下しての勝利だった。明け3歳(2001年から馬齢表記が変更される)シーズンは、羽田盃、東京王冠賞、東京ダービーに勝利し、南関東の三冠馬となった。無敗で南関東三冠を達成したのは、トーシンブリザードが史上初でもある。この後、ジャパンダートダービー(GI)でも圧倒的な1番人気に応えて優勝。四冠馬となり、圧倒的な強さを誇った。

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▲中央地方問わずに活躍したトーシンブリザード(提供:荒木牧場)

 その後、東京大賞典(GI)で3着、翌年のフェブラリーS(GI)で2着、交流競走のかしわ記念(GII)で優勝など、2度の骨折休養を挟みながら長きに渡って活躍を続け、2005年11月のJBCスプリント(GI)7着を最後に現役生活に別れを告げた。新冠町の白馬スタリオンステーションで種牡馬入りするが、2008年12月には種牡馬を引退し、荒木牧場で功労馬として第三の馬生を送ることとなった。

「ウチの馬の中では若いので、走り回ったりとまだヤンチャな面がありますね。人参には目がないですね。人参を持っているとわかると寄ってきて、人参くれくれと前がきして穴が掘れますから(笑)。比較的食べるものには敏感ですね(笑)」

 エスケープハッチについては、以前このコラムで詳しく紹介させていただいたが、取材時に繋養されていた埼玉県のつばさ乗馬苑から荒木牧場におよそ2年振りに戻ってきた。ハッチは再び踏みしめた北の大地で、伸び伸びと放牧生活を謳歌している。

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▲以前に当コラムで紹介したエスケープハッチ(提供:荒木牧場)

 エスケープハッチの隣の放牧地にいるのが、種牡馬として繋養されているオリオンザサンクスだ。1996年4月10日生まれだから、今年21歳。門別町の森永隆範さんの生産馬で、父はシャンハイ、母はミラノコレクション、母父リヴリアという血統だ。1998年にホッカイドウ競馬の田部和則厩舎からデビューし、重賞の栄冠賞を含めて6戦4勝の成績で、その年の暮れ大井競馬の赤間清松厩舎に転厩している。スピードあふれる先行策で京浜盃、南関東の三冠レースの羽田盃、東京ダービーで逃げ切り勝ちを演じて二冠を達成。第1回ジャパンダートダービーでも鮮やかに逃げ切り、中央馬を含む強豪を封じ込めた。

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▲現役時代は個性的な走りで存在感を示したオリオンザサンクス(提供:荒木牧場)

 その後は中央のフェブラリーS(GI)に出走してハイペースの大逃げを打ったり、重賞のフロンティアスプリント盃で優勝するなど存在感を示していたが、2001年の佐賀記念(GIII)11着ののちに屈腱炎を発症。引退して、2002年から種牡馬入りしている。

「この馬は、下が滑るのが嫌いなんです。普通はスタスタと歩くのですが、この馬はちょっとでも滑ると細かく速く脚を動かしてガガガガガガガガッと行ってしまって、今の時期、下が凍った時は余計危ないんです。本人的には怖くてそうなるのでしょうけど『その歩き方の方が怖いんだけど』とか言いながら曳いています(笑)。

 最近はだいぶ性格が丸くなりましたね。以前は見学者が来ても遠くにいて近寄って来なかったりと、ひねくれた感じがありました。でも最近は見学者に人参をおねだりしたりするようになりました。エスケープハッチが人参もらうのに、見学者に愛嬌を振りまいたりしているのを近くで見て『ああやったら僕も人参をもらえるのかな』と学習したのかもしれませんね(笑)」

 そして2011年に荒木牧場の一員となったネーハイシーザーは、順応性も高くすぐに新しい環境にも慣れた。

「性格はわりとおっとりしています。環境に馴染むのに時間もかかりませんでした。賢い馬で、無駄な動きはしませんね。この年齢になって怖いのは、骨折なんです。冬場の下が滑る時期は特に動かずじっとしています。夏場は青草が出るので、それを求めてそれなりに歩いて運動にはなってはいますが、あまり動かない分、筋力もだいぶ落ちてきていますし、節々も弱ってきています。そのあたりは気をつけていかなければと思っています。こちらに来た当初はまだ走ることもありましたが、どちらかというと象や牛のようにのっしのっしと歩いていますね。今年引退馬協会さんのツアーや旅行会社のツアーで見学した方も、そのあたりを感じたようです。ただ競走馬として成績を残している馬ですし、心肺機能がしっかりしているのでしょうね。目力があって顔付もまだ若々しいですし、飼い葉も年の割にはしっかり食べていて、生きる気力は衰えてはいませんね。

 サク癖をするのですが、腸内環境を整えてくれるルーサンを発酵させた餌を与えて、疝痛防止に努めていますし、ウチに来てから疝痛にはなっていないです」

 そして1番の新入りは、このコラムでも紹介したばかりのキクノスパンカーだ。

「スパンカーは元気ですね。放牧の時は大人しいのですけど、収牧の時に木戸口を開けるとまるでゲートを飛び出すようにドーンと出るんです(笑)。下が凍っていてもスパンカーは割と怖がらない子で、それだけに下が凍っている時は滑らないようにだけは気をつけています」

 サラブレッドの一生は、波乱に満ちている。例えばネーハイシーザーは、秋の天皇賞優勝という栄光に輝きながらも、屈腱炎を発症して競走馬生命を絶たれ、種付け料無料で一時は繁殖牝馬を集めながらも、やがて種牡馬としても必要とされなくなった。種牡馬引退後は牧場でのんびりと過ごしていながらも助成金の減額でまた岐路に立たされた。幸い荒木牧場で余生の続きを送ることができているが、どんなに輝かしい成績を残していても、いまだ行方知れずになる馬は後を絶たない。

 今回ネーハイシーザーをはじめとする荒木牧場で第二、第三の馬生を過ごす馬たちのエピソードを聞き、馬1頭1頭に個性があり、命の輝きがあるのだと改めて感じた。そして人間のために頑張ってきた馬たちが処分という道を辿らず、1頭でも多くその馬らしい新たな道に進めるよう願いを込めながら、来年もまたコラムを書き続けていけたらと思っている。

(了)

※今年の更新は本日分で終了です。年始の2日は休載となり、初回は9日より更新予定です。


ネーハイシーザーは見学可です。

競走馬ふるさと案内所の下記ページをご参照ください。

http://uma-furusato.com/i_search/detail_farm/_id_1418

※荒木牧場功労馬サポーターズHP

https://akbks.jimdo.com/

※荒木牧場功労馬サポーターズFacebook

https://www.facebook.com/荒木牧場功労馬サポーターズ-1590776117800623/

荒木牧場功労馬サポーターズでは、ただ今会員募集中です。

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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