2018年03月07日(水) 12:10
▲ netkeiba Books+ から「競馬とバレエ 〜ふたつのニジンスキー伝説〜」の1章をお届けいたします。(写真:1970年のエプソムダービー/英ダービー時のニジンスキー 写真:今井寿恵)
競馬もバレエもその磨き上げられた身体と研ぎ澄まされた技術を披露するという意味ではまぎれもない“芸術”。そのふたつがたぐいまれな交差をなしとげた素晴らしい例をご紹介する。競馬とバレエの極上のマリアージュをご堪能あれ。
(文:netkeiba Books+ 編集部)
サラブレッドの名前にはバレエダンサーの名前が多い。
ご存知ですか、ヌレエフ、イサドラ、ダンカン、カルサビナ、パブロワ、バリシニコフ…。
どれも19世紀から現代にかけての名バレエダンサーであり、同時に彼、彼女らの名前はそのままサラブレッドの名前となっている。
ダンサーだけではない。本書のテーマと関連する20世紀初頭に誕生したバレエ団“バレエ・リュス”の創設者「ディアギレフ」やサンクト・ペテルブルクにあるキーロフ歌劇場(現マリインスキー劇場)の名前そのままの「キーロフ」「マリインスキー」、果ては「スワン・レイク」(白鳥の湖)など、バレエ関連の名前を持つサラブレッドは枚挙に暇がない。
以上は、日本馬の例だが、試しに日本馬を含めた世界のサラブレッド約270万頭のデータベースであるネットサイト http://www.pedigreequery.com/ で検索してみる。
すると意外な事実が判明する。たとえば本書の主人公「ニジンスキー」。
この名前を聞けば、競馬のオールドファンなら
ニジンスキー(1967〜1992):カナダで生まれ、アイルランドで調教された競走馬。史上15頭目のイギリスクラシック三冠馬。種牡馬としても1986年にイギリス・アイルランドのリーディングサイアーとなった。1976年にデビューし、中央競馬8戦8勝の名馬マルゼンスキーの父馬…
といったデータがたちどころに頭に浮かぶだろうし、その父馬たる、
ノーザンダンサー(1961〜1990):カナダの歴史的名馬。カナダ・アメリカで走り1964年アメリカクラシック二冠を制し、いまだに(2018年3月1日現在)、人間以外でカナダ・スポーツ殿堂入りを果たした唯一の存在。種牡馬としては北米の枠を超えて世界レベルで成功、ノーザンダンサー系をひとまとめで見た場合、欧州圏や豪州圏では全生産頭数の過半数から8割を占めるとされ、20世紀中最も成功した馬である…
辺りの情報も瞬時にアップロードされるだろう。
引退後の名馬ノーザンダンサー。(写真:今井寿恵)
今でこそノーザンダンサーの種牡馬としての評価は上述の通り、圧倒的なものがある。だが、競馬評論家の白井透などによると、種牡馬としてのノーザンダンサーは当初それほど期待されていなかったようだ。むしろ2年目産駒のニジンスキーがイギリス三冠馬になったことでチャンピオンサイアーとなり、翌1971年にもアメリカでチャンピオンサイアーになったことで、ノーザンダンサー神話がささやかれだしたようだ(それ以後は1977年、83年、84年にもチャンピオンサイアーになっている)。その意味では産駒ニジンスキーあってこその父馬ノーザンダンサーと言えるのかもしれない。
実際の話、サラブレッドに付けたい名前の人気面でもニジンスキーは父馬をはるかに凌駕している。上記のサラブレッドデータベースで「Northern dancer」「Nijinsky」と検索すると、前者のヒットは1頭だけだが、後者はカナダはもとよりアメリカ、アルゼンチンなどで総勢10頭(!)もいた事実がわかる。しかもこのうち、ノーザンダンサー産駒のニジンスキーは生年で言えば9頭目、“ニジンスキー9号”に過ぎない。なにしろ1919年のブラジルですでに「ニジンスキー」という名前のサラブレッドが登場しているのだ。約100年前の1919年である。下がその一覧。
NIJINSKYという名を持つ馬一覧
そんな昔から“ニジンスキー”の名前は有名だったのだ。その名前は、本書のもう一方の主人公であり、実在のこのバレエダンサーに由来する。
ニジンスキー(1889〜1950)(生年に関しては諸説あり):ロシアのバレエダンサー・振付師。驚異的な脚力による『まるで空中で静止したような』跳躍、中性的な身のこなしなどにより伝説となった。
ネット上のノーザンダンサー産駒ニジンスキー欄でもこんな一文が見つけられるはずだー「名前の由来はロシアの伝説的なバレエダンサーであるヴァスラフ・ニジンスキーから」。
正確に確認はできないが、他のサラブレッド・ニジンスキーもこのバレエダンサーにあやかったのは間違いないだろう。それほどまでにこのダンサーが世界の競馬関係者のみならず、あまねく世論に与えたインパクトは凄まじかった。
では「ニジンスキー」とはどれほどのダンサーだったのだろうか。
舞台はブラジルでニジンスキー1号が生まれる少し前から始まる。
(続きは 『netkeiba Books+』 で)
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