【石橋脩×藤岡佑介】第4回『あんな直線の世界を見たのは初めて...衝撃を受けた名馬たち』

2018年07月11日(水) 18:02

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▲今週のテーマは、それぞれにとって「過去に乗ったなかで一番の馬」

今週のテーマは、石橋騎手と佑介騎手それぞれにとっての『過去に乗ったなかで一番の馬』。「長いあいだ馬に乗ってきて、あんな直線の世界を見たのは初めて」と、一頭の馬を評した石橋騎手。対して佑介騎手は「過去に乗ったなかで一番は、どこまでいってもその一択」と、一頭の馬を迷わず指名。ふたりの心を掴んで離さない名馬とは? (取材・構成:不破由妃子)


直前のレースで頭が真っ白に…春天勝利の舞台裏

佑介 これまでお互いにいろいろありましたけど、最近の脩ちゃんは楽しそうに競馬に乗っていますよね。

石橋 楽しいね。楽しくない時期もあったから余計に。

佑介 僕もありました。でも、そういう時期があったからこそ、今、楽しく仕事ができていることに感謝できる。やっぱり怖いですからね、またそういう状況に戻ってしまうことが。脩ちゃんが楽しくなかったのっていつごろですか?

石橋 3年前くらいかな。あの頃は本当に楽しくなかった。成績もひどかったし、精神状態がもうね…。ただ、これといったきっかけがあったわけじゃないんだよ。落ちることが怖かったのか何なのか、調教でもレースでも馬がちょっと躓くだけで気になるようになってしまって。何かが起こるんじゃないか、変なところで動くんじゃないかって、いつもビクビクしていたような気がする。

佑介 そうだったんですね。僕もそのころは人の心配をしている場合じゃなかったから、脩ちゃんのそういう気持ちに気付きませんでした。

石橋 誰かに相談したりしなかったからね。でも、自分でも思うけど、あの頃は本当に元気がなかったんだよ。そのときにね、岩田さんがすごく優しくしてくれて。

佑介 なにか声を掛けてくれたんですか?

石橋 うん。いろいろと話してくれる中で励ましてもらって。すごくつらい時期だったから本当にありがたかったし、気に掛けてくれたことがうれしかった。

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▲「すごくつらい時期に、岩田さんがすごく優しくしてくれて…」

佑介 そういう精神状態からどうやって脱出したんですか?

石橋 いや、あるときから「なるようになれ」って思えるようになったんだよね。そうしたら、自然と怖さもなくなっていった。そこから今に至るっていう感じかな。

佑介 じゃあ、今ドゥラメンテに乗ったら勝てますね(笑)。

石橋 今は勝てる、と思う(笑)。さっきも話したけど、本当にスゴイ馬だったから。長いあいだ馬に乗ってきて、あんな直線の世界を見たのは初めてだった。なんていうのかなぁ、空気を切り裂いていく感じなんだよね。ものすごいバネで、馬とは思えないというか。今まで乗ってきたなかで、芝では間違いなくあの馬がナンバー1だね。そういえば、ダートにもいたよ、そういう馬が。

佑介 イジゲンですよね。

石橋 そうそう! 僕のなかではその2頭がダートと芝のナンバー1。そもそもイジゲンがいたから、ビートブラックの天皇賞(春)にも乗れたわけで…。

佑介 あぁ、天皇賞の前の端午Sですよね。そっちが先に決まってたんだ。

石橋 うん。で、その端午Sで大失敗をおかして、頭が真っ白になってさ。だから、天皇賞はある意味、ものすごくクリアな状態で乗れたんだよね。今となっては、それもひとつの勝因なのかなって。

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▲2012年の天皇賞・春で自身初のGI勝利 (C)netkeiba.com

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▲テン乗りで期待に応えてくれたビートブラックを労う (C)netkeiba.com

佑介 そこからあの“伝説の雄たけび”が生まれたわけですね(笑)。

石橋 そうです(笑)。イジゲンで負けて頭が真っ白になったと思ったら、ビートブラックでは勝って頭が真っ白になった。だってさぁ、GIを勝ちたいと思って騎手になったわけだからね。それはもう大興奮だったよ。

佑介 初GIが天皇賞(春)ですからね。それは興奮しますわ。

石橋 しかも、あのレースが僕の京都初勝利だからね。初物に縁があるから、初騎乗のダービーもいけるんじゃないかなとか思ったりしたけど(笑)。佑介にとって、僕でいうドゥラメンテやイジゲンのような馬は?

佑介 ダートでは、池江泰寿厩舎にいたランザローテですね。馬力がありすぎて、扱えなかったっていう(苦笑)。ゲートが苦手であまり大成できなかったんだけど、あの馬は本当に半端じゃなかった。能力があったのはもちろん、とにかくすごい馬力で、ゲートを壊すんじゃないかと思ったくらい(笑)。

石橋 なんかわかるなぁ。走る馬っていうのは、得てして規格外のことをするからね。芝の馬では?

佑介 そうだなぁ、ものすごい衝撃を受けたのはショウナンマイティですね。

石橋 え? ショウナンマイティ乗ってたっけ?

佑介 調教で一度乗せてもらったんです。それまでにも追って沈む馬はいたけど、二段階沈む馬はマイティが初めてでした。しかも、まだ体全体を使って走れる状態じゃなかったのに、信じられないくらい伸びていきましたからね。ただ、過去に乗ったなかで一番といったら、それはもうオルフェーヴルですよ。どこまでいってもその一択です。

石橋 オルフェにも調教で乗ったの?

佑介 フランスの芝で追い切りに乗ったんです。すごかったですよ、ホントに。

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▲国内最強だったオルフェーヴル、凱旋門賞では惜しくも2年連続2着 (撮影:高橋正和)

石橋 調教とはいえ、それはすごい経験だね。

佑介 はい。排気量がね、もうケタ違い。同じ1ハロン11秒だとしても、目一杯走っての11秒と余裕で出す11秒では違うじゃないですか。オルフェの場合、サラーッと走って11秒なんです。結局、いかに余裕を持ってそのスピードに到達するかがすべてですよね。フォームなんてどうでもいい。

石橋 うん、そうかもしれないね。サラーッと11秒ということでいえば、サトノティターンがかなり近いかも。調教で乗っていても、なんでこんなに動くんだろうっていうくらい動く。競馬でもまだ遊んでいる状態だし、もしかしたらすごい馬になるかもしれない。

佑介 それは楽しみですね。最近、若い馬に乗るときは、どれだけスピードに奥行きがあるか、その点をすごく重要視しています。レースのときも、トップスピードに入ったときにどれだけ余裕を持って走っているかを感じるようにしています。それだけである程度の排気量がわかりますからね。でも、そんなオルフェでも勝てなかったのが凱旋門賞。フランスから帰国して2カ月後に、馬なりで有馬記念を勝つような馬が負けるんですからね。

石橋 ホントだよね。でも、その凱旋門賞で、1番人気(現地オッズで一時、1番人気に。レーシング・ポストの最終オッズは4番人気)の馬に騎乗したのが川田(ハープスター)。同年代であんな経験をするなんて、本当にすごいことだと思うよ。経験値が全然違う。

佑介 それは本当にそう思います。さすがの将雅でも緊張したらしいですからね。

石橋 そりゃするでしょ(笑)。ひとつ後輩なのにあんなにGIを勝って、貴重な経験もたくさんしてさ。もちろん馬も動かせるし、個人的には日本人のなかで川田が一番巧いと思ってるよ。

(文中敬称略、次回へつづく)

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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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