2018年09月19日(水) 18:01
久々にメディアの前に登場した岩田康誠騎手との対談。第2回のテーマは、多くのファンの方も気になっていたであろうこの話題から。初の重賞未勝利、勝ち星も68勝と激減した2016年。突然の丸坊主頭に周囲はざわざわ。きっかけや心境は何だったのでしょうか? さらに“大型新人”と早くも注目を集めている、来年騎手デビューを迎える息子、望来(みらい)くんについて。名手がのぞかせる本音に迫ります。 (構成:不破由妃子)
──JRAに移籍して以降、初の重賞未勝利、勝ち星も68勝と激減した2016年ですが、今振り返って思い当たる原因はありますか?
岩田 いや、何もないんやけどなぁ。
佑介 僕は、“長くジョッキーをやっていれば、岩田さんほどの人でもこういう時期もあるのか…”と思って見ていました。岩田さんの競馬が変わったわけではないし、ケガをしていたわけでもないけど、なぜか勝ち切れないというか。
岩田 また勝てなくなると、“岩田らしくない”とかよう言われてね。
佑介 そういえば、丸坊主になったのって2016年あたりでしたよね?
岩田 そうやね。あれはね、息子が競馬学校に入ったから、俺も一緒に(坊主に)するかということで。
──そうだったんですね。私はてっきり、何かの禊かと…(苦笑)。
岩田 違うわ(笑)! あと、あの年は松田(博資)先生が定年を迎えられたこともあって。お世話になった先生が引退されて、息子が競馬学校に入って、俺もまた心機一転頑張ろうみたいな気持ちになって、心機一転しすぎたみたいな(笑)。でも、今思うとなんやったんかなぁ。自分でもようわからん…(苦笑)。
▲2016年で引退された松田博資調教師と(C)netkeiba.com
佑介 松田先生の引退もひとつの区切りだったと思いますが、岩田さんにとって望来(みらい)くんが競馬学校に入学したことも大きな出来事だったんですね。望来くんは昔から「ジョッキーになりたい」と言い続けてきて、そのための準備もしてきたじゃないですか。でも、実際に競馬学校に入ったことで、“あと3年で自分の息子がジョッキーになる”という未来がハッキリと見えた。岩田さんの心境にも何か変化があったんでしょうね。
岩田 そうかもしれんなぁ。それにしても、入学して1年、2年と過ぎて、もう来年デビューやからね。トレセン実習で一緒に乗ってるわけやけど、心配というか、すごく不安。もちろん、そういうことは本人には言うてないし、先生(所属する藤原英昭師)にすべてお任せしてるんやけど、どうしても期待より不安のほうが大きくて。
佑介 親心ですねぇ。
岩田 新人の頃の苦労は、身を持って知ってるから。
▲佑介「親心ですねぇ」
佑介 岩田さんから見て、馬乗りとしての望来くんはどうですか?
岩田 俺が言うのもなんやけど、まぁしっかり乗れてるんじゃねーの(笑)。
佑介 巧いですよね。トレセン実習で乗っているのを見ていても、達者だなぁと思います。
岩田 小学5年生くらいから乗馬を始めて、それ以降はホントに馬漬けやったからね。
──藤原先生は、望来くんが小学生の頃から目を付けていたそうですね。だいぶ前ですが、厩舎で乗馬の大会かなにかの望来くんの映像を観ながら、絶賛していたのを覚えています。
佑介 ジョッキーとして必要なものを持っていると僕も思いますよ。最近の親子ジョッキーといえば、僕の勝手なイメージなんですけど、木幡さんも典さんも岩田さんも息子がジョッキーになることが決まったり、実際にデビューしたりすると、みなさん僕らに対する普段の接し方がだんだん優しくなってくるような(笑)。
岩田 いやいや、俺は普段から何も厳しいことは言うてへんよ。
佑介 たしかに岩田さんは普段から厳しいわけではないけど、なんとなく穏やかになった気はしますけどね。僕の勝手な見方ですけど。
岩田 そうかぁ、少しは意識してるのかもなぁ。やっぱりいろんな意味で、息子にカッコ悪いところは見せられへんていうのはあるし。
──親子ジョッキーということであれば、佑介さんだって十分可能性がありますからね。
佑介 うん、まぁ(笑)。でも、ウチはまだ6歳ですからね。そういえば、和田さんが面白いことを言ってましたよ。もし自分の息子がジョッキーになったら、心配云々以上に、一緒に乗ったら絶対に自分が勝ってしまうからそれが嫌だって。なんか独特な考え方やなって思いました。
岩田 そんなこと言うても勝負はガチやし、ガチで戦わんと意味ないし。俺はレースのなかで親心が出ることはないわ。もちろん、同じレースに乗っていても、応援する気持ちはあるけどね。でもそれ以上に、まず自分が勝ちたいというのが一番やから。
佑介 腰を入れて必死に追いながら抜いていくときにふと横を見たら、「あっ! 望来やった…」みたいなことがありそう(笑)。ゴール前でかわしていきながら「ごめーん!」みたいな。
岩田 せやな(笑)。
▲岩田「それ以上に、まず自分が勝ちたいというのが一番やから」
佑介 でも、年齢差を考えると、父親と息子がどちらも現役バリバリの状態で戦うのって難しいですよね。息子たちが第一線に上り詰めるまでには時間が掛かるし、そうなったらそうなったで、今度はこっちが年を取ってくるわけですから。現役バリバリの父親を息子が引きずり下ろすみたいな構図も見てみたいんですけどね。引導を渡すみたいな。
岩田 あ、いいね、そういうの。園田時代を考えても、息子がデビューしたら親は調教師になるとか、そういう流れが多かったからね。現実的に、親に追いついた、追い越したって言われるまでになるのは何十年も掛かるのが普通やから。
佑介 でも、望来くんの場合、バックアップ体制も含めて久々に大型新人の気配がありますけどね。
岩田 あと半年でデビューか…。早いなぁ。どうしよ(苦笑)。
佑介 たぶん岩田さんは、ものすごく心配しながら一緒に乗るんでしょうけど、環境的に岩田さんが口を出せる状況にないから、かえっていいかもしれませんよ。
岩田 うん。何か口を出そうものなら、「お前は黙っとけ」って言われそうやもんな(笑)。
佑介 それにしても、藤原先生のようなトップトレーナーが、若手ジョッキーを育てることに力を入れてくれるのはすごくいいですよね。矢作先生もそうですし。今、オーストラリアで頑張っている(坂井)瑠星なんて、絶対にいいモデルになりますよ。来年あたり、めちゃくちゃ勝つかもしれませんからね。
岩田 俺もそう思うわ。アイルランドに行ってる野中もすごいよな。ずいぶん長いこと行ってるでしょ。
佑介 彼は以前からセンスが光っていたし、元々が上手ですからね。僕も注目しています。岩田さんとしても、早い段階で望来くんを海外に行かせたいんじゃないですか?
岩田 ライアン(ムーア)がきているときに、ちょっと相談をしたことがあるんやけど、「それなら俺が帰るときに(望来くんも)一緒に連れて行くよ。それが一番の近道だよ」って。そのときは、「いやいや、まだ学校生だから! 無理やから!」みたいな感じやったんだけど(笑)、そう言ってくれるだけでも心強いよね。
(文中敬称略、次回へつづく)
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藤岡佑介
1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。
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