ベルーフがやってきた!ジオファーム八幡平 新たな馬生を歩む11頭(5)

2018年10月16日(火) 18:00

第二のストーリー

▲ジオファーム八幡平は引退馬がマイペースに第二の馬生を送っている(提供:Creem Pan)

11頭の元気がおいしいマッシュルームのもと

 引退した競走馬たちは、いったいどのような馬生が待っているのか。中央競馬の競走馬登録を抹消された行き先の1つに乗馬という項目があるが、実はすべての馬がそうなるわけではない。競走馬から乗馬となるための調教が新たに施されなければならないし、日本の乗馬クラブの数、乗馬人口にも限りがあり、すべての馬の受け皿がないというのが実情だ。

 馬が出す馬糞の堆肥でマッシュルームを作る、馬の仕事は馬糞を出すこと。その馬糞から出た堆肥によって、美味しいマッシュルームが出来上がる。ジオファーム八幡平では、乗馬として活躍できない馬でも、馬糞を出す仕事があり、生きる道が開かれている。
 
 ジオファーム八幡平にいるサラブレッド11頭も、日々ボロを出してマッシュルーム作りに貢献している。

 その中にベルモントセブン(セン10)という馬がいる。調べてみると、まだ地方競馬に登録が残っているため、もう1度競走馬として走らせてみようという計画が進行中だ。

「競走馬は競走馬ですし、走れるうちはレースに出走した方が良いのではないかと思うんです。引退した後の行き先がないというのが問題であって、競馬や競走馬が問題というわけではないということを伝えていきたいですね」

 走るために生まれてきたサラブレッド。また競馬を使うのかという賛否両論はあるだろうが、サラブレッドとして生まれてきた使命を全うさせるというのも、人間の役目の1つではないか。葛藤がありながらも、船橋さんはそう考えているようだ。

 そのベルモントセブンは2008年4月12日生まれで、今年10歳。新冠町のベルモントファームの生産で、父はグラスワンダー、母はスターリーナイト、母父がスターオブコジーンという血統だ。中央競馬でデビューしたものの未勝利のまま地方に移籍。南関東、園田、東海、岩手、高知と転々として、これまで145戦12勝の成績を挙げている。

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▲ベルモントセブン(提供:ジオファーム八幡平)

「こちらに来てのんびり過ごして馬体も緩んでいますし、子供を乗せてみて乗馬としてものすごく良いのもわかっているので、無理をさせるつもりはありません。やってみて難しそうならやめよう、1回きりにしましょうという話になっています」

 競走馬として復帰する可能性のあるベルモントセブンとは対照的なのが、オウケンイチゲキ(セン9)だ。父タニノギムレット、母はオウケンガール、母父マーベラスサンデー。母系を辿ると曾祖母に名牝ロジータがいる血統で、新冠町の高瀬牧場の生産だ。この馬自身は中央で2勝、佐賀競馬に移籍してからは3勝、通算成績は32戦5勝となっている。2017年の2月のレースで故障(競走中止)して引退を余儀なくされた。

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▲オウケンイチゲキ(提供:ジオファーム八幡平)

「左前脚の繋靭帯を不全断裂しているので乗馬にするのは難しいですが、重傷だったこともありしっかり治療をされていて、人と結構関わってきていますのですごくコミュニケーションが取れる子なんです。残念ながら片方しか去勢ができなくて、牝馬が前を通ったりするとかなりテンションが上がって扱いづらい面もありますけどね」

 繋靭帯はほぼ固まってはいるものの、繋ぎが曲がらないため歩様は硬くて左前だけ蹄鉄を装着している状況だが、ジオファーム八幡平では立派な労働力となっている。

 ダート王者のカネヒキリの半兄ナインティプルーフ(セン19)も元気に暮らしている。こちらは帯広畜産大学馬術部で活躍していた馬だ。父Wild Again、母ライフアウトゼア、母父はDeputy Ministerで、1999年3月27日に早来町(現・安平町)のノーザンファームで生まれている。2002年に中央競馬デビューして3勝したのちに地方競馬に移籍して3戦1勝、通算成績10戦4勝で引退して乗馬となった。

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▲ナインティプルーフ(提供:ジオファーム八幡平)

「野外の鬼と言われていたほど、馬術競技馬としてとにかく経験豊富で、学生たちを試合で完走に導いてきた馬なんです」

 クロスカントリー、馬場馬術、障害飛越と3種目で競うのが総合馬術競技だが、野外の鬼と言われていたナインティプルーフは、特にクロスカントリーが得意だったということだろう。

「けれども人が大嫌いで、来たばかりの頃は馬房に入ったら俺のスペースに入って来るなと噛む、蹴るという馬でした。1年半くらいたつのですけど、最近はめちゃくちゃ丸くなってきました(笑)。お腹回りはまだ嫌みたいですけど、時間がたつにつれて撫でて撫でてという感じになってきましたね」

 そして重賞勝ちこそなかったが、オープンで活躍したシンボリエンパイア(セン9)もマイペースに暮らしている。父はエンパイアメーカー、母ミスエマ、母父Key of Luckという血統で、2009年2月18日にアメリカで生まれている。藤沢和雄厩舎の管理馬として、ダート路線で22戦5勝。最後のレースとなった2015年5月3日のオアシスS(OP)で骨折のために競走中止となっていた。

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▲シンボリエンパイア(提供:ジオファーム八幡平)

「プレートを入れる手術をしたようですね。昨年から行列だけですが、相馬野馬追にも参加しています。自分を持った馬ですね。人のことをよく見ていますが、何か気になるものがあったりしたらずんずくずんずくそちらに歩いていきますし、好き勝手に行動しています。気が緩んでいるのか、下唇もベロンと緩んでいますよ(笑)」

 競走馬登録抹消後の情報が少なかったので、ジオファーム八幡平で元気にしていると知ってホッとしているファンも多いことだろう。

 最近入厩したのがシルバージュビリー(牝5)で、父ファルブラヴ、母シルバーパラダイス、母父アジュディケーティングという血統だ。浦河町の鮫川啓一さんの生産馬で、高校の馬術部から移動してきた馬だ。

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▲シルバージュビリー(提供:ジオファーム八幡平)

「日馬連(日本馬術連盟)登録の馬名はステラです。能力がありそうですし、まだ5歳と若いですからね。障害飛越の競技馬として積極的に試合にも出場していこうと思っています。

 初回にも紹介したベルーフについても改めて話を聞いた。

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▲ベルーフ(提供:ジオファーム八幡平)

「TCCの馬なのですが、怪我が重度なので乗馬や競技能力は求められないけれど何とかならないだろうかという話が、TCCでは以前からあったようなんですね。ジオファームが雑誌に掲載されたのがきっかけで栗東でミーティングさせてもらったのですが、ウチはオウケンイチゲキのように馬糞を出してくれればいいというのもありますし、ベルーフを是非お願いできたらというお話を頂いて、そこからTCCと連携を取る形になりました。

 本当に可愛がられてきたんだという感じで可愛いのですけど、まだ若いのでいきがっている部分があって、人に対してちょっかいを出してくることもあります。神経質な面があって、物見も結構しますね。かと思えば別の所にバーッと走っていったりもして、これは神経質だからというのもあるのかもしれないですけど、危なっかしいなと思う面もあります。来た初日からものすごく食べて、ボロの量もすごいので、堆肥馬としてはオープンクラスです(笑)。よく食べるし、競走馬としても成績を残していますので、腸内環境が良いのではないかとも思います」

 前脚はスッキリしているが飛節の腱がズレているため、動きを見ているとトモが緩い感じがあるという。無理はさせるつもりはないが、ふれあいなど乗らない形での活躍の場を模索しているとのことだ。

 他にもキサキタ(セン11)、モリノミヤコ(セン16)、父アグネスタキオンのフローガ(牝10)、

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▲キサキタ(提供:ジオファーム八幡平)

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▲モリノミヤコ(提供:ジオファーム八幡平)

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▲フローガ(提供:ジオファーム八幡平)

 更には現在休養中のコスモジョイジョイ(牡6)、オウケンシスター(牝8)という2頭の現役競走馬も馬糞を提供してくれるジオファーム八幡平の大切な仲間たちだ。

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▲現役競走馬のコスモジョイジョイ(提供:ジオファーム八幡平)

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▲こちらも現役競走馬のオウケンシスター(提供:ジオファーム八幡平)

 ジオファーム八幡平のような場所が各地にできて、馬たちの生きる場所、活躍できる場所が増えて行ってほしいと、取材の中で船橋さんは何度も繰り返した。ベルーフやオウケンイチゲキのように、例え乗馬にはなれなくても、馬糞を出すという立派な仕事がある。実際に大きな故障をした2頭を繋養している船橋さんの言葉は説得力がある。そして私たちも馬糞堆肥で作られたマッシュルームを味わい、楽しむことができる。

 馬と人との新しい共存の形として、ジオファーム八幡平の取り組みは今後も注目されていくだろうし、馬たちのためにも益々の発展を祈りたい。

(了)


ジオファーム八幡平 HP

http://geo-farm.com/

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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