生きてる限り一生勉強! 実は…高校に通っています。

2024年05月01日(水) 12:00

日々是好日

▲桜花賞を制したステレンボッシュ&モレイラ騎手

 春の祭典GI戦線が開幕。7日、桜が咲き誇る阪神競馬場へ、牝馬クラシック第一戦 桜花賞を久々に見に行きました。やっぱり生観戦は、ドキドキワクワクします。

 ステレンボッシュ号を桜の女王に導いたのはモレイラ騎手。マジックマンと呼ばれるほどの手綱捌きは見事でしたね。スタートはあまりよくなかったが、慌てることなくじっと我慢し、レースの中盤でアスコリピチェーノを射程に入れる巧妙なレース展開でした。“えー、そこに入ってくるかー”とドキドキしながら見ていました。

 アパパネ、アーモンドアイを育て上げた国枝調教師の活躍は見逃せません。楽しみが膨らんできました。国枝調教師とも久々にお話しできよかったです。陣営の皆様おめでとうございます。

 そして、この日は、福永厩舎の活躍も素晴らしかったです。福島8Rでマルカブリッツ号に小沢騎手が騎乗し初勝利。上手く乗ってくれました。

 続く阪神10Rではエーデルブルーメ号が快勝。さすが川田騎手です。馬に合わせて上手く乗ってくれましたね。

日々是好日

▲福永調教師×川田騎手のタッグでの勝利!(c)netkeiba

 3月6日に開業し、デビュー戦は武豊騎手が騎乗。さすがといった競馬でしたが惜しくもハナ差2着。4度の2着。2度の3着と悔しい競馬が続いていたので勝つことができよかったです。

 同期の活躍は、頼もしいです。生観戦し、目の前でユーイチ(福永先生)の最高の笑顔を見ることができてよかったです。お祝いの言葉をかけるときに僕もチラッとTVに映ってしまい恐縮でした。陣営の皆様おめでとうございます。

 また、福永厩舎から今年デビュー予定の2歳馬カムイカル号は、父・母ともに騎手時代に自ら手綱をとっていた縁の深い馬なので期待も大きいとコメントしていました。6月2日の京都(芝1400m)でデビュー予定だそうです。福永厩舎からこれからどんな馬が育つのか楽しみです。

***

 同期の活躍に僕自身も「頑張る」と決め、実は昨年高校受験をしました。

 2004年に落馬事故で脳損傷と診断され、いろいろなリハビリや治療を受けてきましたが、復帰することができず2007年2月に引退。阪神競馬場で引退式をしていただき区切りをつけることができました。その後、高次脳機能障害と診断され記憶障害・左半側無視・視野欠損・身体左麻痺など、両手では数えきれないほどの症状が出てきました。歩くのもぎこちなく自分の家もわからずウロウロ。散歩に連れて出た愛犬も放り出して帰る。いろんな方に会うが名前もすぐに忘れてしまう。覚えることができないんですよね。住所も電話番号も怪しいです。

 毎日毎日歩く練習や、字を書く、人の名前を覚えるなどトレーニング。少し走れるようになりランニングクラブに入れていただき、伴走付きで大阪フルマラソンに連続5回参加し、3回完走することができました。リハビリで始めた乗馬でしたが競技大会に参加しパラリンピックを目指そうと決め、3時間かけて明石乗馬協会に週1回通っていますが、乗馬用のリュックを電車に忘れるなどハプニングの連続。忘れたことを忘れるなど苦難山盛り。

 いろいろなことにチャレンジしトレーニングもしていますが、日々の生活が上手くできないのがとっても悔しい。情けないです。仕事もしたいと思うが、思うようにできず、みみの里という聴覚障害作業所に通っています。ゼッケンバッグをつくり販売、バームクーヘン販売、空き缶プレスなどの作業をしています。

 このままでは格好悪すぎる。アスリートの根性と魂が、元騎手の私の体には残っている。脳外科の馬杉先生の「脳は何歳になっても訓練すればきっとよくなるはずだから勉強しなさい」という言葉を思い出した。京都大学病院の先生も同じことをいう。

 だから、勉強したいと思ったんです。

 競馬学校では多くのことを勉強しましたが、高校卒業にはならないので、高校卒業の資格を取りたいと思い、思い切って受験。合格通知が来たときは、競馬学校合格通知くらいうれしかったです。

日々是好日

▲入学式にて

 2度もこんな喜びを味わえるなんてめちゃ嬉しい! 入学式は、全日制の高校生も同じなので凄い人数に驚きました。

 私は綾羽高校の通信制に週末(土)のみ登校していますが、教科は普通高校と同じだけあります。

 昨年の期末テスト、そして学年末テストを終えて無事に進級することができ、今年から高校2年生です。僕のクラスは、いろいろな事情で進学が遅れた生徒も在籍していますが、僕が最年長で担任の先生より年上なので『つねパパ』の愛称で呼ばれています。若い仲間たちと交流して過ごす時間は結構面白いです。

 2年生になると授業も難しくなり、倫理、グローバル、科学…など7時間授業です。

 競馬学校時にも4教科の授業はありましたが4倍くらい増えています。

 さー、これからもがんばるぞー。英語が苦手で苦労してます。誰か家庭教師してくれませんか? ドイツ語のダンケシェーンだけは言えるんですよ(笑)。

 乗馬も、パリ・パラリンピック候補選手に選ばれているので最後まで諦めない。パラ馬術と二刀流で頑張ります。

 学校へ行ったことが少し役に立ち、集中力がよくなったようで「かっちゃんチョット大人になったね」とトレーナーから褒めてもらいました。

 一番苦手な馬を歩かせる経路を覚えることに集中していきたい。左半側空間無視の症状があるのでポイントのポールが見えないためにコースへ甘く進入する。きっちり見るようにしていく。体幹が崩れない様にテイクフィジカルコンディショニングジムでトレーニングも頑張ってます。

 毎日が充実し、勉強することが楽しくなってきました。生きてる限り一生勉強と昔の人は言ったそうですが、ホンマですね。今やっていることが脳を活発にしてくれると信じやり切りたいと思います。

 5月1日からドイツマンハイム大会に出場します。何度も行っているので、ドイツへは一人で行けるようになりました。競馬学校時代と騎手時代に培った素早く移動する経験が役に立っています。やっぱり学ぶということは、いいなと思いました。

 最後になりますが、先日天国へ旅立った藤岡康太騎手の無念さを思うと悔しくてなりません。僕の取材にもいつも快く話してくれ、名前と顔が一致する騎手の一人です。改めて落馬の恐怖を感じています。康太騎手の分まで頑張るからね。合掌。

オカン 落馬事故から20年経ち、学校へ行きたいと言い始めた息子。そのチャレンジすることへの意欲を応援しようと、思い切って学校訪問すると受け入れていただくことができました。感謝です。障害を持つことにほとんど抵抗なく、高校生の仲間に入っていることが不思議なくらいです。

 先日50m競走があり「一番遅くて10秒以上かかったけど、最後まで走って、みんな応援してくれた」と自慢そうに話していました。楽しい時間を過ごすなかのほんのちょっとした出来事が、彼の心を豊かにしてくれていることに感謝。

 2年生の授業は、かなり難しい課題に突入。頑張れ息子。一生勉強。学ぶこと。母からの願いは2つ。忘れ物をしない、字を丁寧に書く。答案用紙に答えは合っているが字が読めないので不正解になるのはもったいないよ。

 落馬事故で毎日ハラハラ気が休まることがないですが、藤岡康太騎手のことを思うと心が痛み言葉になりません。贅沢な悩みだと思っています。社宅にいる頃、中学生で犬の散歩をしている康太騎手の姿がいまでもはっきり思い浮かび悔しく思います。安らかに。安らかにを祈る事しかできない無念さ感じ手を合わせる。騎手の皆様人馬の命を守る騎乗を志してください。

 つねかつこと常石勝義&おかん

(次回の更新は6/1(土)を予定しております)

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常石勝義

1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っている。

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