「遠き慮りなければ、必ず近き憂いあり」

2014年05月29日(木) 12:00


◆クラシックにおける「長い目で見ること」の重要さ

 何事も視野に入れる射程距離が長いかどうかで対策の立て方は異なる。長い目で見ず、目先のことにとらわれていると、早晩、行き詰まる。それは分かるのだが、どうしても目先の対応を優先してしまう。「遠き慮(おもんぱか)りなければ、必ず近き憂(うれ)いあり」と論語が教えているとおり、この点はおろそかにはできない。目の前のことを器用にこなすことも必要だが、そればかりでは大事は成し得ない。遠い先のことまで対策を立ててかかりたい。クラシックレースに立ち向かう過程を見ていると、ある程度長い目で見ることの重要さが分かってくる。

 オークスで怪物を完封したヌーヴォレコルト、その勝利は、ここに至る万全の態勢づくりの勝利でもあった。折り合いに苦労することがなく操作しやすいこの馬が、東京競馬場の二千四百米をどう戦えば勝てるか、その準備にぬかりはなかった。古馬顔負けの猛げいこ、長めを丹念にくりかえし乗られても食いが落ちることはなかったという。チューリップ賞、桜花賞と戦い、ハープスターとの差を縮められた手応えから、距離延長、地元での競馬という利点をどう生かすか。タフな競馬になっても不安を抱かずにすむ馬自身の精神力の強さもあって、鞍上の岩田騎手は、ひたすらこの馬の競馬に徹することに専念できたのだった。

 遠い先のことまで対策を立ててとなると、ダービー戦線のこれまでの戦いにも見い出せる。かつて、6戦全勝でダービーを逃げ切ったミホノブルボン。持って生まれた資質は、マイラーどころかスプリンターだったと戸山為夫調教師は語っていた。スピードと瞬発力は天性のものだから、いくらけい古を積んでも上積みはないが、スタミナはトレーニングで植えつけられると、坂路の申し子と呼ばれるほどの猛げいこをさせたのだった。その猛特訓に耐え抜いたミホノブルボンの精神力の強さがあったからこそでもあるが、何を視野に入れてきたか、どう対策を立ててきたか、しっかり見極めたい。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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