7年振りに現地観戦した各国の腕利きが集う世界騎手選抜戦「シャーガーC」

2014年08月13日(水) 12:00


チーム戦というのは日本人の気質にも合う概念だけにぜひ取り入れていただきたいイベント

 9日(土曜日)に英国アスコット競馬場で、世界騎手選抜戦「シャーガーC」が開催された。

 ゴルフのライダーCに範をとり1999年に創設されたのがシャーガーCだ。各国の腕利きが集う類似の大会は様々な地域で開催されているが、個人戦よりはチーム戦に重きを置いているのがシャーガーCのユニークな点である。欧州代表VS 中東代表という図式で第1回が催された後、チーム数が増え、チームの組み方にもいくつかの変遷があった後、2012年から「英愛代表」「英愛以外の欧州代表」「欧州以外の世界代表」「女性代表」の4チームによるコンペティションとなっている。

 ちなみに今年のチームは、英愛代表がトム・キーリー、ジミー・フォーチュン、リチャード・ヒューズ、英愛以外の欧州代表がフランキー・デトーリ、オリヴィエ・ペリエ、アドリー・ド・ヴリエ、欧州以外の世界代表が福永祐一、クレイグ・ウィリアムス、スマンガ・クマロ、女性代表がヘイリー・ターナー、エマ・ジェイン・ウィルソン、ステファニー・ホファーの各騎手によって編成された。世界9カ国から、競馬ファンならばお馴染みの顔触ればかりが集った、ドリームマッチである。

 私自身が現地観戦したのは、07年以来7年振りのことだった。

 前日赴いたニューマーケットのイヴニング開催が、豪雨に見舞われおおいに難儀したのとは一変、9日のアスコットは好天に恵まれ、かと言って暑すぎず、快適な競馬日和となった。前日の雨はアスコット一帯にも降ったとのことで、当日朝には晴れたものの、馬場は「Good,ところによりGood to Soft」という、欧州の関係者からしたら理想に近いトラックコンディションとなった。

 ポイントのブレイクダウンは、1着15点、2着10点、3着7点、4着5点、5着3点。すなわち、1競走あたり40ポイント、全部で6競走あるから、合計240ポイントを12名のジョッキーで争奪することになる。ちなみに、1人の騎手が乗るのは5競走だ。

 それでは、全6戦の結果を、順を追ってご紹介していこう。

 第1競走のシャーガーCダッシュ(5F)は、クレイグ・ウィリアムスのゴールドリアム(セン5)とオリヴィエ・ペリエのムーヴインタイム(セン6)の競り合いになった末に、ゴールドリアムが勝利。福永騎手騎乗のレイシー(セン7)は中団から伸びず着外に終わったが、福永騎手所属の世界代表チームは、この段階で首位に躍り出た。

 第2競走のシャーガーCステイヤーズ(16F)。ゴール前、力強く伸びたのが、カナダの女性騎手エマ・ジェイン・ウィルソンが乗るリタイアメントプラン(牡4)で、アドリー・ド・ヴリエの乗るバックランド(セン6)に1.1/4馬身差をつける完勝となった。エマ・ジェイン・ウィルソンのシャーガーC参戦はこれが3回目だが、勝利を挙げたのはこれが初めて。ちなみにレース後彼女は、「3200mのレースに勝つのはデビュー以来初めて」と、興奮気味に語っていた。なお福永騎手のデブデブデブ(牝4)は、後方から追い込んだものの4着までだった。

 第3競走のシャーガーCチャレンジ(12F)は、トム・キーリー騎乗のシミーン(セン5)が快勝。ドイツの女性騎手ステファニー・ホファーの乗るプラウドチーフテイン(セン6)が2着。福永騎手騎乗のチャールズカモイン(セン6)は、直線で外に出した際に一旦は伸び掛かったものの、最後の1Fで止まって残念ながら7着に敗れた。

 第4競走のシャーガーCマイル(8F)は、ゴール前3頭が横に並ぶ接戦の末に、エマ・ジェイン・ウィルソン騎乗のドントコールミー(セン7)が優勝。並んでの追い比べでも全く引けをとらない、まさに男勝りのパワフルな騎乗をする騎手である。2着が、南アフリカから参加した黒人騎手スマンガ・クマロの乗るテノール(セン4)。福永騎手騎乗のバンクヌアナヒーリアン(セン7)は、直線外を伸びるも5着までだった。

 第4戦を終えた段階で、個人の首位は2勝で30ポイント獲得のエマ・ジェイン・ウィルソン。2位が27ポイントのオリヴィエ・ペリエ。

 チーム別のポイントは、首位が女性チームで50ポイント。2位が欧州チームで47ポイント、3位が世界チームで41ポイントと、3チームが接近し白熱の争いとなった。

 福永騎手は「お休み」だった第5競走のシャーガーCクラシック(12F)は、個人戦首位のエマ・ジェイン・ウィルソンが騎乗するアストロネリウス(牡3)と、個人戦2位のオリヴィエ・ペリエが騎乗するアワガブリエル(セン3)の2頭による叩き合いとなり、ここではペリエのアワガブリエルが鼻差先んじて優勝。この段階で、個人優勝争いはペリエが42ポイントで首位に立ち、エマ・ジェインが40ポイントで第2位。チーム戦でもペリエが所属する欧州チームが69ポイントとなり、63ポイントの女性チームを逆転して首位に立った。

 ただし、最終戦のペリエは「お休み」。エマ・ジェインが5着になると2ポイント加算されて42ポイントとなり、ペリエと同点優勝。4着以内に入るとペリエを逆転して優勝、という状況で迎えたのが、最終戦の第6競走、シャーガーCスプリント(6F)だった。

 ここは、リチャード・ヒューズが騎乗するハイランドアクレイム(セン3)と、ジミー・フォーチュンが騎乗するゴールデンステップ(セン3)による叩き合いの末、ハイランドアクレイムが優勝。地元の英愛チームはここまで、第3競走でトム・キーリーが勝利を収めた以外は全くと言ってよいほど見せ場が無かっただけに、ゴール前でスタンドから沸き上がった歓声は、G1かと見紛うほど大きなものだった。ここでも、福永騎手騎乗のサーロバートシュヴァル(セン3)は5着。

 そして、エマ・ジェイン・ウィルソン騎乗のメジャークリスピーズ(セン3)は8着に敗れ、ペリエを逆転することは出来なかった。

 更にチーム戦も、最終戦における欧州チームは無得点に終わったのに対し、女性チームはステファニー・ホファーが乗るテルミード(牡3)が4着に入って5点を追加。総合ポイント68ポイントとしたものの、欧州チームにわずか1ポイント及ばず、残念ながら女性チームによる初優勝は実現しなかった。

 乗り馬に恵まれず、成績は振るわなかった福永騎手だが、欧州メディアの注目度は非常に高かった。と言うのも、福永騎手はジャスタウェイでの凱旋門賞参戦が決まっており、欧州メディアの質問も、シャーガーCに関するものよりは、ジャスタウェイ絡みのものが圧倒的に多かった。本人はこれを「非常に名誉なこと」として、同じような質問を繰り返されても丁寧に応対していた。

 シャーガーC参戦は06年以来8年振りだった福永騎手だが、アスコットについて「8年前よりは走りやすい馬場になっている」とコメント。ことに、スウィンリーボトムと呼ばれる、おむすび形の馬場の頂点にあたる標高の一番低いあたりが「8年前はボコボコだったけど、今はかなり整地されている」と感じたそうで、「これなら日本馬でも対応できるのではないか」とコメントしていたのが印象的だった。

 さて今年のシャーガーCは、前年を上回る29,046人の観客を集め、盛況のうちに幕を閉じることになった。

 冒頭でも記したように、各地で騎手選抜戦が行なわれている中、シャーガーCがひと際成功している鍵は、チーム戦というコンセプトにあるように思う。

 チーム戦というのは日本人の気質にも合う概念だけに、我が国でもぜひ取り入れていただきたいイベントである。例えば、チーム編成としては、美浦代表、栗東代表、地方代表、女性代表の4チームというのはどうだろう。現段階で女性騎手はNARにしかいないから、実質は地方競馬代表が2チーム出来ることになるが、それが返って全国的な話題を呼ぶ要因となるような気もする。あるいは、10代代表、20代代表、30代代表、40歳以上代表と、年齢別に4チームを構成しても面白いかもしれない。

 日本でも導入すれば、工夫次第で大きな盛り上がりを呼ぶ可能性のあるイベントとは言えないだろうか。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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