特別な凱旋門賞

2014年10月04日(土) 12:00


◆「ミスター競馬」が45年前に見た夢

 なぜ、私たち日本のファンや競馬関係者は、凱旋門賞にこれほど強い思い入れを持つのだろう。

 なぜ、私たちは、これほど強く日本馬の凱旋門賞勝利を願うのだろう。

 なぜ、私たちは、凱旋門賞を勝った馬に、これほど深い敬意を表するのだろう。

 それらの「なぜ」に対する答えとしてもっともふさわしいのは、

「凱旋門賞だから」

 というひと言のような気がする。

 今さら私が云々するまでもなく、凱旋門賞は特別なレースである。

 それはそうと、凱旋門賞は、いつから日本で「凱旋門賞」と表記され、そう呼ばれているのだろう。「Prix de l''Arc de Triomphe」を「凱旋門賞」と訳したのは、JRAの関係者なのか、それともメディアなのか。日本語が達者なフランス人が「名付け親」だったりしたら、それはそれで面白いのだが。

 野平祐二・スピードシンボリが日本の人馬として初参戦した1969年には、すでに「凱旋門賞」だったはずだ。それも含め、古い資料に当たればわかるかもしれないので、今度調べてみたい。

 凱旋門賞の舞台であるロンシャン競馬場が改修工事を施されるため、再来年、2016年はシャンティイ競馬場で施行される予定だという。今年日本馬が勝ったとしても、勝てなかったとしても、シャンティイで行われる凱旋門賞にも何頭かの日本馬が参戦するのだろうか。

 凱旋門賞のことを考えると、こんなふうにいくつもの「?」が浮かんでくる。

 もっとも差し迫った「?」は、「今年出走する3頭――ゴールドシップ、ジャスタウェイ、ハープスターのうち、どれかが勝つことができるだろうか?」の「?」である。

 現地の関係者も認めているように、いつかは日本馬が勝つことは間違いない。

 それが今年になるのか、どうか。

 ゴールドシップが勝つとしたら、比較的よどみない流れになり、どの馬も最後にさして速い脚を使えない展開になったときか。

 逆に、凡走するとしたら、周囲で手綱を引っ張り合うような超スローな流れのなかで身動きがとれなくなり、最後の瞬発力勝負で置かれてしまう形になったときか。

 ジャスタウェイが勝つとしたら、序盤から、

 ――これが凱旋門賞?

 と驚くぐらいのハイペースになったときか。そうなると、ぶっちぎりの圧勝まであるかもしれない。

 凡走するとしたら、ゴールドシップに有利になるようなよどみない流れで、持久力が求められる展開になったときか。

 ハープスターが勝つとしたら、ゴールドシップやジャスタウェイにとってはあまり歓迎できない、超スローな流れになり、ラストの瞬発力勝負になったときか。そうなると、古馬の牡馬より5kgも軽い斤量のアドバンテージが大いに生きる。

 だが、問題は、そうした展開でこそ最大限の力を発揮する馬が、地元のフランス調教馬にも複数いることだ。

 凡走するとしたら、ジャスタウェイにとって苦しいパターン同様、よどみない流れになるか、出入りの激しい展開になって、持久力と耐久力が求められる形になったときか。

 似たようなタイプの馬が3頭出るよりも、このように、どれかに有利になればどれかに不利になり、その逆もある、という3頭のほうが、可能性がゼロになるリスクを軽減できる。

 また、ただタイプが異なるだけではなく、3頭ともとてつもなく強いし、しかも状態がいいだけに、期待がふくらむ。

「ミスター競馬」が45年前に見た夢が、はたして叶うか。

 第93回凱旋門賞が、今度こそ、本当に、私たちにとって「特別な凱旋門賞」となることを祈りたい。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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