フランスで“インパクト”のあるデビュー勝ちを飾ったディープインパクト産駒

2014年11月19日(水) 12:00


カラコンティーのBCマイル優勝で世界の競馬地図における「日本産馬」の存在が改めてクローズアップされている

 いささか旧聞に属する話題で恐縮だが、8日(土曜日)にフランス・サンクルー競馬場でデビュー戦を快勝した日本産馬テイルオヴライフ(牡2、父ディープインパクト)について、今回は書かせていただきたい。

 なにしろ、カラコンティー(牡3、バーンスタイン)のG1BCマイル(芝8F)優勝で、世界の競馬地図における「日本産馬」の存在が改めてクローズアップされた直後だっただけに、ことさらインパクトのあるデビュー勝ちだったのである。

 テイルオヴライフはカラコンティー同様、フランスの名門ブリーダー・ニアルコス家による日本における生産馬である。

 カラコンティーが、3代母が欧米両大陸でチャンピオンとなった希代の名牝ミエスクであるのに対し、テイルオヴライフはミエスクの孫(母セカンドハピネスの母がミエスク)にあたるという、同じ牝系を背景に持つ。

 カラコンティーの母サンイズアップ同様、テイルオヴライフの母セカンドハピネスも、現役時代はニアルコス家の所有馬で、現在はJBBA静内で供用されているバゴを交配することを主目的に、日本へやってきた。セカンドハピネスの来日は2006年だったから、サンイズアップの来日よりも4年早い。

 こうして日本へ送った繁殖牝馬が産んだ仔を、ニアルコス家は全て欧州に送り返しているわけではなく、日本の競馬に向きそうな個体は日本に残し、欧州の競馬に向くと判断した個体を欧州へ連れて帰っている。

 2007年に初仔が産まれた後、毎年順調に誕生したセカンドハピネスの産駒も、3番仔と4番仔は日本に残り、いずれもJRHAセレクトセールで売却されている。このうち、11年のセレクトセール1歳市場にて金子真人ホールディングスに2500万円で購買されたのが、今も現役で走っているマンボネフュー(牡4、父バゴ)だ。御存知のようにマンボネフューは既に4勝している他、G2スプリングS5着、G3共同通信杯5着といった実績を残している。テイルオヴライフは、マンボネフューの2つ年下の半弟にあたるわけだ。

 セカンドハピネスにディープインパクトが交配されたのは、日本で繁殖入り後6年目の2011年が初めてだった。セカンドハピネスの父はストームキャットで、一見すると「ディープインパクト×ストームキャット」のニックスを狙ったようにも見えるが、この配合が話題になりはじめたのは、キズナやアユサンが2歳戦で非凡さを見せ始めた2012年秋以降のことだったから、決して「狙った配合」ではなさそうだ。

 あるいは、サンデーサイレンス牝馬のサンイズアップに、バーンスタイン(その父ストームキャット)を交配して2011年春に生まれたカラコンティーの出来が当歳時から素晴らしく、セカンドハピネスにディープインパクト(その父サンデーサイレンス)でカラコンティーの「逆配合」を狙った、と見る方が、推測としてはまだしも筋が通っていそうだ。あくまでも、筆者の勝手な憶測に過ぎないのだが。

 2012年5月6日に新冠で生まれ、離乳後に白老に移動したテイルオヴライフは、丸1年以上を日本で過ごした後、2013年6月12日にフランスへ向けて出国している。同じ便には、カラコンティーの1つ年下の半弟にあたるアルティテューズ(父バゴ)も同乗。アルティテューズの方は、11月16日現在でまだデビューをしていない。

 現役時代のバゴを管理し、現在はカラコンティーを管理する、ニアルコス家の主戦厩舎の1つジョナサン・ピース厩舎に入ったテイルオヴライフの、デビュー戦となったのが、11月8日にサンクルー競馬場で行われた芝1600mの未出走馬限定メイドンだった。

 9頭立てだった中、テイルオヴライフはオッズ9.9倍の5番人気と、ファンの支持はそれほど高くなかった。

 オッズ2.0倍で1番人気だったのが、アンドレ・ファーブル厩舎のサラシン(牡2、父モンスン)。同馬は、ロンシャンのLRリアンクール賞(芝2100m)2着馬サーラウィー(父ピヴォタル)の半弟。

 オッズ5.3倍の2番人気が、アラン・ド・ロワイヤルデュプレ厩舎のザルザリ(牡2、父ダラカニ)。アガ・カーン殿下の自家生産馬で、母は98年のG1仏千ギニー勝ち馬ザライーカだ。

 更に、オッズ8.3倍で4番人気だったのが、カリッド・アブドゥーラ殿下のジャドモントによる自家生産馬で、G1ジャンプラ賞勝ち馬ミューチュアルトラストの半弟にあたるピランスバーグ(牡2、父レイルリンク)だったから、なかなかに良血馬の揃った新馬戦であった。

 ステファン・パスキエが乗るテイルオヴライフは、抜群のスタートから3番手を追走。直線に向くと間もなく先頭に立った同馬は、ゴールが近づくにつれてグイグイと加速し、最後は後続に7馬身差をつける圧勝。中団後ろ目から追い込んだピランスバーグが2着。2番手追走のサラシンが3着。逃げたザルザリは末をなくして5着に敗れている。

 7馬身差勝ちという結果もさることながら、内容的にも、出脚の速さ、鞍上の指示に従い3番手で折り合った操作性の良さ、そして追われてからの反応の良さと、デビュー戦としては非の打ちどころのないものだったテイルオヴライフ。来季のクラシックを意識させる存在であることは間違いなく、日本の競馬ファンの皆様もぜひ、その名前を記憶の片隅に留めておいていただきたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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