「動かない決断」について

2014年12月18日(木) 12:00


じっとしてみるのも悪くない

 躊躇(ちゅうちょ)するのと敢えて進まないのとでは、大きな違いがある。一方にはためらいがあるが、他方にはそれがなく、立派な決断だからだ。なにも前へ進むだけが決断ではなく、あえて動かないのも決断で、こういう決断の方が進む決断よりも、はるかに難しい。なのに理解してもらえぬことがよくあるのではないか。

 老子の言葉に、「敢えてするに勇なれば則ち殺し、敢えてせざるに勇なれば則ち活く」とある。同じ勇気でも、前へ進む勇気はわが身を滅ぼし、あえて進まない勇気はわが身を活かすというのだ。これは、決断を下すとき、そこに希望的観測が入り不利になる条件に目をつぶったり、目先の利益につられたり、油断したりするからだと言う。決断は、その方向に意味があり、「動かない決断」があってもいいのだ。時と場合もあるが、どう仕様もなかったらじっとしてみるのも悪くない。

 阪神ジュベナイルフィリーズのショウナンアデラは、正にそれだった。いずれも楽勝で連勝してきたその内容が、どれも好位置からの競馬。本当の力がどれほどであるかを見せた後方一気の追い込みだった。スタートで遅れたことで、蛯名正義騎手は「動かない決断」を下した。それもインコースでじっと構え、後方から4〜5番手。この我慢が最後の脚につながったのだが、直線に坂のある阪神は馬群がバラけるから、早めに外に出されなかったのもよかった。ここでも「動かない決断」があった。そして、左前方にスペースができると一気にスパート、まるで赤い弾丸のように突き抜けていった。一度、こういうレースをしてみたかったと蛯名騎手は語っていたが、それに応えたショウナンアデラの精神力にも度肝を抜かれた。人と馬、その両面からはっきり見えてくる競馬は面白い。

 この「動かない決断」には、下した決断は変えないという捉え方もある。こうと決めたら最後までやり抜く。旧朝日杯3歳ステークスを勝ったミホノブルボンは、徹底的に鍛え上げることで距離の限界を超えた名馬だった。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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