ファシグティプトン・フロリダ2歳トレーニングセールが開催

2015年03月11日(水) 12:00


日本でもクロフネやエーシンフォワードといったG1勝ち馬を出しており、POG的にも要チェック

 日本でもクロフネやエーシンフォワードといったG1勝ち馬を出している「ファシグティプトン・フロリダ2歳トレーニングセール」が、3月4日(水曜日)にガルフストリームパーク競馬場で開催された。

 1年前のこのセールに比べて、更には1週前にカリフォルニアで行われた「バレッツ2歳セレクトセール」に比べて、購買者の数が明らかに多かったのは、今年の上場馬の血統的水準が非常に高かったこともあるが、それ以上に、開催場所がガルフストリームパークとなったことが大きく影響したように思う。

 ファシグティプトン・フロリダ2歳セールが、フロリダ州随一の競馬場であるガルフストリームで開催されたのは、実はこれが初めてだった。このセールは長く、同じフロリダ州のコールダー競馬場を開催地としていたが、200頭を超える上場馬を収容する馬房の確保が困難になったことで、2011年にパームメドウズ・トレーニングセンターに移動。そのパームメドウズも、滞在する現役馬の数が増えて手狭になり、2014年にはオカラのアデナスプリングス・サウスに移動と、流浪の身にあったのがここ数年のファシグティプトン・フロリダ2歳セールだった。

 このセールの、コールダー時代の「売り」の1つが、3月上旬にして既に夏真っ盛りのビーチに近く、マイアミの繁華街も車で30分ほどという「ロケーション」にあった。バカンスを兼ねて訪れることが出来るセールという点が、富裕層に受けていたのである。

 パームメドウズに移った段階で、海こそ遠くはないものの、マイアミからはだいぶ離れてしまった印象があったが、オカラのアデナスプリングス・サウスとなると、地域としては「不便」で「退屈」で、リゾート気分を味わえるセールとしての魅力は全くと言ってよいほど失われていた。セールとは、まさしく真剣勝負で馬を選ぶ場所で、遊びに行くところではないものの、せり会場の周辺は様々な意味で魅力的なエリアの方が、足を運ぶ者のモチベーションが上がることは間違いなく、誰もが待ち望んでいたのが、セールのマイアミエリアへの回帰であった。

 会場となったガルフストリームパークは、フォートローダーデール国際空港から車で20〜30分という至便な場所にある。

 競馬場の敷地内には「ザ・ヴィレッジ」というモールがあり、クオリティの高いレストランが多数入っているから、下見の時にもセール当日も、おいしい食事を徒歩圏内で楽しむことが出来た。東に2ブロックほど行ったあたりに大型のスーパーマーケットがある他、車で南に3分ほど走れば「アヴェンチュラモール」というバカでかいショッピングモールがあって、たいていの買い物はごく近場で済ますことが出来た。そして、車で東に5〜6分も走ればビーチに突き当たり、何よりも地域の治安が良く安心して街を歩けるという、文句のつけようのない立地条件を備えているのが、ガルフストリームパークなのである。その厩舎地区の南側に、2つの臨時厩舎を設置して上場馬を収容し、パドックをせり会場として開催されたのが、今年のファシグティプトン・フロリダ2歳セールだった。

 肝心の市況だが、まずは、カタログ記載馬175頭のうち、実際にセールスリングに登場したのは132頭だった。近年の北米2歳セールはどこも欠場馬が非常に多く、ことに遠方から遥々足を伸ばす購買者にはおおいに不評だったのだが、欠場が全体の4分の1以下というのは、まずもって良心的な水準だと思う。

 上場された132頭のうち、売買が成立したのが89頭で、販売総額は2009万5500ドルであった。

 前年は、カタログ記載馬156頭のうち、実際に上場されたのは85頭で、このうち47頭が総額1337万ドルで購買されていた。上場頭数が増えたゆえ売上げアップは織り込み済みだったが、それにしても、総売り上げの50.3%アップというのは期待以上の数字だった。その背景にあったのがバイバックレートの低下で、前年の44.7%から今年は32.6%と、2歳セールとしては優秀な数字をマーク。平均価格の22万5792ドルは前年比20.6%ダウン、中間価格の13万ドルは前年比27.7%ダウンとなったものの、まずは健全なマーケットが展開されたと見てよさそうである。

 強いて言えば、20万ドル〜30万ドルの価格帯における需要が薄かったかなという印象があり、この価格帯の購買者はおそらくは、来週のOBSマーチセールに流れるのであろう。140万ドルという最高価格で購買されたのは、大方の予想通り、昨年のG1BCクラシック勝ち馬バイエルンの半弟にあたる上場番号130の牡馬(父スキャットダディ)だった。昨秋のキーンランドセプテンバーセールにて45万ドルという高値で仕入れられた馬で、そんな良血馬が公開調教で1F=10秒2を無理なく出したのだから、高くなるのも道理である。購買したのは、クールモアスタッドのM.V.マグナーだった。

 注目の日本人によると見られる購買は、8頭あった。前年の3頭から頭数的に大幅増になっただけでなく、その8頭の平均価格はセール全体の平均価格を大きく上回る33万0625ドルだったから、質的にも相当良い素材が日本に入ってくることになった。

 57万5千ドルで購買された上場番号40番(母リヴィンロヴィン)の牝馬は、昨年の全米リーディングサイヤーで、日本でもゴールデンバローズという大物を出して話題の種牡馬タピットの産駒である。5月17日という遅生まれで、顔つきなどにはまだまだ幼さが残っている中、公開調教で1F=10秒4をマークした動きは抜群で、相当に楽しめそうな大器と見る。

 30万ドルで購買された上場番号58番(母ノーティマンボ)の牡馬は、2010年の全米2歳チャンピオンで、この世代が初年度産駒となるアンクルモーの産駒。皮膚の薄い馬体ときびきびした歩様が厩舎村で目立っていた馬が、公開調教で1F=10秒0の最速時計をマーク。それでなお、動きにはまだ余裕があったという、きっちり仕上がればどこまで走るのか末恐ろしくなる逸材だ。

 公開調教で1F=10秒6の時計を記録した後、右膝に骨片剥離を発症してセールを欠場。その後に直接交渉で購買が決まったのが、上場番号76番(母ロイヤルストレートフラッシュ)の牡馬だ。父は2010年のG1サンタアニタダービー勝ち馬で、この世代が初年度産駒となるシドニーズキャンディである。トモに幅のある、いかにもスピードのありそうな馬体の持ち主。膝の故障はごく軽微なもので、日本到着後の調整にはほとんど影響しないと見られている。

 17万5千ドルで購買された上場番号80番(母サンタロザリア)の牝馬は、最高価格馬と同じスキャットダディの産駒。後駆が立派に発達し、なおかつバランスのとれた好馬体の持ち主で、柔らかな歩様も魅力的だった馬だ。公開調教で、馬場の真ん中を駆け抜けて1F=10秒2をマークした動きも惚れ惚れするほどで、価格よりは遥かに値打ちのある1頭だ。コストパフォーマンスという点で80番以上に旨味があるのが、12万ドルで購買された上場番号133番(母アスペングロウ)の牡馬だ。父は、サイヤーランキング上位の常連であるアンブライドルズソング。流麗なフォルムとバランスの良い馬体の持ち主で、公開調教で1F=10秒4をマークした動きも上々だったこの馬。マーケットには時々、エアポケットのような時空が出現するものだが、この馬が落札された時がまさにそんな瞬間だったとしか思えない価格である。

 34万ドルで購買された上場番号145番(母チェルシーバラード)の牡馬は、日本でもカジノドライヴやザッハーマインといった活躍馬を出しているマインシャフトの産駒。胸が深くトモっ張りも良い好馬体の持ち主で、踏み込みの深い歩様も目についた1頭だ。血統的にはダート寄りだが、馬としては柔らかいだけに、芝でも動けそうな1頭と見る。

 22万5千ドルで購買された上場番号160番(母デピューティディライト)の牝馬も、この世代が初年度産駒となるアンクルモーの産駒。半姉にカナダの2歳牝馬チャンピオン・ディライトフルメアリー、半兄に重賞4勝馬ディライトフルキスがいるという良血馬で、将来の繁殖牝馬としての価値も高い1頭だ。母の父がフレンチデピュティで、日本の競馬との相性も良さそうである。

 牝馬としては市場2番目の高値となる80万ドルで購買された上場番号172番(母エンバーズソング)の牝馬は、キーンランドセプテンバーにて29万ドルで仕入れられていた、もともとの期待馬。父ジャイアンツコーズウェイ、母の父アンブライドルズソングという配合から想像しがちな重さは全くない馬で、むしろ運動神経の良さそうなアスリートタイプの馬体の持ち主だ。1F=10秒4で駆け抜けた動きともども、価格に相応しい器を持った馬である。

 それぞれ見どころのある馬たちばかりで、POG的にも要チェックと言えそうだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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