天皇賞・春に距離見直し論! 国内長距離路線はどこへ行くか

2015年05月25日(月) 18:01

教えてノモケン

▲ゴールドシップが勝利した2015年天皇賞・春、国内長距離路線の未来とは

 本稿のアップはダービー週の月曜(25日)である。競馬シーズンも佳境に入る。当然ながら主役は3歳馬。一方で近年、上半期の古馬路線は盛り上がりに乏しい感が否めない。3200mの天皇賞・春を嫌って、ドバイだけでなく、香港や豪州に遠征する馬が相次ぎ、役者のそろわないケースが多いためだ。

 日本最大の生産者である社台グループは、天皇賞・春の距離見直しを公然と唱え、関係馬を次々に海外に送っている。国内に現在、重賞5つと万葉Sの計6つしかない3000m級の平地競走。果たして長距離路線はどこへ行くか?

世界の「50大レース」から漏れる

 国際競馬統括機関連盟(IFHA)は今年3月6日、「世界のトップ100GIレース」を発表した。各国のGIレースの上位4頭のレーティングを平均した「パフォーマンスレート」の直近3年分をさらに平均し、算出した値でレースのランク付けを行った。なお、各馬のレーティングは年末に各国のハンディキャッパーが合議決定した値を使用する。

 トップは英インターナショナルSの124.17で、凱旋門賞が123.67の2位。英チャンピオンSの123.50が3位で続き、ブリーダーズCクラシックが123.42で芝以外のトップ。日本からはジャパンCが122.92で8位。ベスト10を見ると、2000m前後が5つで最も多く、次いで2400mが4、ジャック・ル・マロワ賞が1600m戦で唯一、ベスト10に入った。2000m路線が重視される近年の傾向そのままと言える。

 日本からはベスト100に10競走が入っていて、古馬中長距離の主流GI5つに加えてダービーと皐月賞、春秋の1600mGI2つとスプリンターズSという構成だ。

 問題の天皇賞・春は117.67で51位。実はこれが、レーティングでの距離区分のうち最も長い「エクステンディド」(Eカテゴリー=2700m超)で世界1位だった。逆に言えば、上位50競走の中に、長距離は1つも入っていないのだ。

 ベスト100のうち、Eカテゴリーに属する競走は他に、69位のメルボルンC(3200m=116.75)と、77位の英セントレジャー(2920m=116.42)があるだけ。ともに近年は位置づけが微妙になっている。前者は地元の長距離路線が手薄で、欧州や日本の一流半クラスの遠征馬の格好のターゲットと化している。後者も既に3冠としての意味は薄れ、気の利いた勝ち馬が出たら凱旋門賞に行くという状況だ。

 また、2005年以降の毎年の世界ランクから、E部門の首位を拾っていくと、最高でも123が2回で、あとは120-122が7年。05年に至ってはトップでも118。菊花賞のディープインパクトと、約4000mのアスコットゴールドCを勝ったウェスターナーだった。

 日本馬がE部門の首位を占めたのは4回。05-06年のディープインパクトと12-13年のフェノーメノで、ディープインパクトの06年は123(天皇賞・春で3分13秒4のレコード勝ち)だった。

 実は今年の天皇賞・春を制したゴールドシップは118止まりで、阪神大賞典の120の方が高い。レーティングの基準馬は2度ともラストインパクトと見られるが、阪神大賞典は2-3着(デニムアンドルビーとラストインパクト)の着差が3馬身も開いたため、GIとGIIで逆転現象が起きた。近年の世界ランク首位は、130なら低レベル。123がやっとの長距離部門の状況を見ると、地盤沈下が進んでいるのは否定できない。

種牡馬を出せない「基幹レース」

 こうした評価がシビアに反映されているのが生産現場である。近年、長距離GIを勝っただけでは種牡馬入りしない例が目立っている。象徴的な例は、04年菊花賞馬で、5歳時にメルボルンCまで勝ったデルタブルースだが、天皇賞・春の優勝馬でも同様のパターンは多い。

 特に、他のタイトルがない馬への評価が低く、04年のイングランディーレは引退後に韓国に直行して種牡馬入り。過去10年の優勝馬でも、マイネルキッツ、ジャガーメイル、ビートブラックは乗馬に転用された。少し遡ると、メジロブライトは種牡馬入りしたが、産駒の平地重賞勝ちは07年ステイヤーズS優勝のマキハタサイボーグだけだった。

 逆に、天皇賞・春のタイトル1つで種牡馬入りという「必敗パターン」を克服したのがスズカマンボ。惜しくも今年死亡したが、父サンデーサイレンス、母の父キングマンボという血統構成が大きかったようだ。実はタイトルが複数でも、非サンデー系は全般に苦戦していて、テイエムオペラオー、ヒシミラクル、メイショウサムソンはJRAの平地GI勝ち馬を1頭も出していない。軽さへの要求が高まる日本の競馬にあっては、スタミナや重厚さがむしろ足を引っ張る現実がある。

 こうした傾向には問題もある。・・・

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野元賢一

1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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