【藤岡健一×藤岡佑介】第3回『息子が武豊なら、もっと気楽にやれたのに(笑)』

2016年05月18日(水) 18:01

with 佑

▲父子でじ〜っくりと語り合うこの企画。同じ世界に身を置く難しさと、喜びとは。

父が調教師で、息子2人がジョッキー。人との関係が広く深く混じり合う競馬界に、親子で身を置くのは、難しい面もあると言います。思わず「息子が武豊だったら(笑)」そんな言葉も飛び出すも、そこは強い絆で結ばれた父子。「お前らが同じ世界にいてくれるから」と本音で語る藤岡調教師に、佑介騎手も本気でぶつかります。(取材・構成:不破由妃子)


(前回のつづき)

みんなから好かれるジョッキーになってほしい

佑介 親父が開業して1年4か月後に俺がデビューしたわけだけど、ジョッキーになりたいって言い出したときはどう思ったの?

藤岡 なってほしいとは思っていなかったけど、なりたいなら叶えてあげたいと思ったよ。そもそも俺は、ジョッキーになれとも競馬の仕事に就けとも言ってないから、自分で考えて自分で決めたんだろうし。

──ご自分の厩舎に所属させようとは思わなかったんですか?

藤岡 開業したばかりで全然軌道に乗っていなかったし、自分が弟子を持つなんて、とてもじゃないけど考えられない時期だったから。そもそも、作田先生に佑介のことをお願いしたときは、まだ開業もしていなかった。

佑介 父親が調教師、息子がジョッキーという関係は、その距離感が難しいだろうなとは思ってたよ。親子がベッタリだと即甘やかされてるということになって、好意的には受け取られないだろうし。だから、そうならないように、親父が先回りして考えてくれたのかなって。

藤岡 それは間違いない。周りからそう見られたときに誰が損をするかといったら、俺じゃなくてお前らだからね。それでも最初の頃は、できるだけお前ら2人を乗せたいっていう気持ちはあったよ。でも、それをやってしまうと、逆に乗せづらくなることが往々にしてあるだろうと。「なんで息子を乗せへんの?」って言われることもあるけど、そこは厳しい世界やから。

佑介 純粋な弟子だったら、師匠は乗せたら乗せただけ賞賛されるし、負けても負けても乗せ続けたら「なんていい師匠や」ってなるけど、ひとたび親子となると、たとえ弟子だとしてもそうはいかないってことかな。

藤岡 息子がジョッキーじゃなかったら、もっと自由が利いたとは思う。なんせ2人やからね。たとえば、藤岡厩舎に馬を預けたら、大抵は佑介か康太が乗るんだろうと思われたとする。それでも預けてくださって、かつ息子たちを乗せるとなれば、それなりの結果を求められるわけだから。でも実際は、佑介や康太に依頼をしても断られることがあるからな。「何とかならんの?」ってお願いしても、「すみません」って(笑)。

佑介 そこはご理解ください(笑)。

藤岡 でもやっぱり、お前らが同じ世界にいてくれるから楽しいこともたくさんあるし、お前らが乗って勝ってくれたら、喜びも倍になる。最近は、「息子たちがすっかり立派になってええなぁ」って言われることが増えたよ。まぁ、俺からすれば2人ともまだまだやけどな。こいつらが“武豊”なら、俺はもっと気楽にやれたのにって思うけど(笑)。

佑介 むしろ「息子を乗せてくれ」って馬を預けてくれるなら、そりゃあ楽やろうね(笑)。デビューした頃は、そういう存在になってやろうと思ってた。俺がデビューしたとき、「調教師としては、武豊のようになってほしい。でも、父親としては、みんなから好かれるジョッキーになってくれればそれでいい」って言ったよね。

with 佑

▲「お前らが乗って勝ってくれたら喜びも倍になる」父の言葉の数々に笑顔を見せる佑介騎手

藤岡 今でもそう思ってるよ。好かれるということは、本当に大事なこと。たとえば、2人のジョッキーがいて、どちらのジョッキーを乗せようかとなったとき、誰でも好きなほうのジョッキーに乗ってほしいと思うからね。

佑介 その教えを守って、ここまで生き延びてきました(笑)。

──先生もご存知だと思いますが、佑介さんは、先輩からも後輩からも本当に人望が厚い。もはや人格者の域かと。

藤岡 小さい頃から、通知表にも「佑介さんは、みんなからの信頼が厚い」とか「佑介さんに任せておけば大丈夫」とか、いつもそういうコメントが書いてあった。その頃から自分で考えて、自分で選択してきたんだと思う。

佑介 意識的にそうしているわけではないんやけどね。たぶん俺は、必要とされることがうれしいんだと思う。だから、仕事でも「必要とされたい」という欲が絶対的にある。「佑介で勝ちたい」と思ってもらえるジョッキーでいたいし、今はそれが一番のモチベーションかな。

藤岡 そういえば、お前がずっと乗っていた馬で、あまり成績が上がらなくて途中で乗り替わったりもしたけど、オーナーに「この馬は最後まで佑介でいきましょう」って言われたときは、さすがにうれしかった。実際に最後まで佑介に託してくれてね。そう言ってもらえるジョッキーになってもらわなアカンし、俺は俺でいろんな方面に義理を尽くしながら、バックアップしていければと思ってるよ。

(文中敬称略、次回へつづく)

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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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