GIでの降着は初の事例 上半期GIと新裁決ルール

2016年06月20日(月) 18:01

 2016年上半期のGIは、6月26日の宝塚記念(阪神・芝2200m)を残すだけとなった。3歳クラシックは「全体に高レベル」との世評を裏付けるように、人気馬が上位を占める結末が続いた。人気の盲点になっていた皐月賞優勝のディーマジェスティ(8番人気)が唯一の例外と言えるが、同馬もダービーでは中間に体調を崩しながら3着と、実力を証明した形だ。

 その意味では、牡牝とも見る側の納得感は比較的高い年だった半面、皐月賞とオークスでは勝負圏内で裁決対象となる問題も発生。皐月賞では降着が、オークスでは優勝騎手が開催2日間の騎乗停止処分を受けた。裁決に関する新ルールが施行されて今年で4年目だが、GIでの降着は初の事例だった。問題点はなかったか、ここで点検してみた。

ケース1『皐月賞』

教えてノモケン

▲皐月賞のゴール前(撮影:下野雄規)

 皐月賞(4月17日中山・芝2000m)では、4位入線のリオンディーズが、直線で外に斜行し、5位エアスピネルの走行を妨害したとして5着に降着。エアスピネルが4着に繰り上がった。リオンディーズのミルコ・デムーロ騎手(37)は9日間(開催4日間)の騎乗停止処分となった。4、5位の着差は鼻差だったため、新ルール下の着順変更の基準である「妨害がなければ着順が変わっていたと認められる」という項目を適用しやすい状況だった。

 なお、皐月賞の裁決レポート(JRAのホームページで閲覧可能)には、3位サトノダイヤモンドも妨害を受けたと明記されている(加害馬より先着)。馬券に絡まない4、5着間の降着であり、サトノダイヤモンドも2着マカヒキから1馬身4分の1差だったため、一連の措置が論争を呼んだ形跡は乏しい。

 この件は先行策から直線でバテたリオンディーズに、デムーロが直線の残り 250-200mの地点で右ムチを使用し、左脇にいたエアスピネル、サトノダイヤモンドを圧迫する形になった、比較的シンプルな事例である。万一、ムチを使用しなくても進路取りが同じであれば、降着の可能性が高かったと考えられる(処分の軽重には当然、影響するが)。

 デムーロは直線より前にも処分を食っている。向こう正面の残り1000m付近で外に膨れて、脇にいたマウントロブソン(6着)があおられたため、過怠金1万円である。皐月賞当日は一時的に強い雨が降り、その後に天候は回復したものの、終日、強風が続いた。皐月賞の時間帯に、向こう正面では風速10m前後の強い向かい風が吹き、前後の芝とダートの1200m戦、芝1600m戦で軒並み、平素より大幅にタイムを要していた。

 ところが、皐月賞は1分57秒9とレースレコードを0秒1更新。1000m地点からの200mのラップは、その前の12秒5から11秒5と急に加速した。ここで先頭に立ったのがほかならぬリオンディーズで、抑えが利かない状態になっていた。中盤で逆風の中、制御を失って無理な加速をしたことが直線での失速と斜行の原因だった。

 余談になるが、リオンディーズは弥生賞でも早めの進出からゴール寸前でマカヒキに差し込まれる、似たパターンを踏んだ。デムーロは皐月賞当日、「芝2000m戦に騎乗した感触から、先行策を選択した」と後にコメントしているが、弥生賞でのレース運びが皐月賞の伏線だったとも言える。この2戦の結果から、ダービーでは後方待機策以外の選択肢がなくなった面もあり、今春のクラシックの全体的な構図にも少なからぬ影響を与えた。

 皐月賞の4、5着は賞金額なら500万円の差だが、ダービーの優先出走権が4着以内のため、それなりの重みはある。今回の場合、両馬とも獲得賞金からダービー出走に問題はなく、これも降着に対する反応が静かだった一因と思われる。ただ、馬券に絡む3着以内であったり、着差がクビ差か半馬身差でも、同様の判断が下ったかどうかは、正直、筆者も即断はしかねる。

 個人的に気になっていた事例は、2月6日の東京第7レース(3歳 500万条件・芝2400m)の1、2位(ヴァンキッシュラン、レーヴァテイン)が降着で入れ替わった件である。当時の着差はクビだが、裁決経験者に尋ねても判断が割れるような微妙さだった。被害馬レーヴァテインの進路がなくなった訳ではなく、JRA審判部は「継続的に外に斜行したことで、前に出ようとする被害馬を押さえ込む形になった」と説明しているが、GIで同様の事例が起きていたら…。新ルール下で「よほどのことがない限り入線順通り」という認識が広まっていた時点でもあり、個人的に違和感を感じた面はある。

ケース2『オークス』

教えてノモケン

▲オークスのゴール前(撮影:下野雄規)

 桜花賞馬ジュエラーが骨折。桜花賞1番人気(4着)のメジャーエンブレムがNHKマイルCに回って優勝。桜花賞2着のシンハライトと、トライアルのフローラSを圧勝したチェッキーノの「2強」構図となったオークス(5月22日東京、芝2400m)。結果は人気順通りでシンハライトが勝ったが、ゴール前 200m付近でも進路が開かない苦しい形だった。・・・

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野元賢一

1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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