【特別対談】的場文男×福永祐一(2)『“剛腕・的場文男”に聞く!ズブい馬を動かすコツ』

2016年12月13日(火) 18:01

祐言実行

▲今回のテーマは「騎乗論」。中央と地方の垣根を越えたトップ騎手同士の熱いトークが展開されます

トゥインクル30周年SP企画第5弾!“大井の帝王”こと的場文男騎手と福永祐一騎手の特別対談、今回のテーマは『騎乗論』です。地方の深いダートが主戦場である的場騎手に、福永騎手が聞いてみたかったのが「ズブい馬を動かすコツ」。“生ける伝説”の技から、話は「大井の後輩である戸崎騎手がなぜあんなにも勝つのか」に及び… (取材・構成:不破由妃子)


「俺だって、できるなら祐一くんみたいに乗りたいよ」

福永 的場さんは、騎乗フォームも独自のスタイルを確立されていますが、馬を動かすということについて、これまで最も重要視されてきたことは何ですか?

的場 俺はね、“馬を締める力”が大事だと思ってる。道中、馬と接しているのは、せいぜいくるぶし周りの10センチから15センチ。だから、その部分でいかに馬をビシッと締めて乗れるか。

福永 なるほど。確かにその部分しか馬との接地面はないですものね。

的場 そうそう。上で人間がグラグラしていたら、馬は絶対に走りづらいはずだし、それだけ負担を掛けてしまう。だから、道中は人間のお尻が揺れないように、スーッと乗ってやったほうが絶対にいい。

 本当にビシッと締まっている場合は、お尻のラインが動かないと思うんだよね。たとえば、折り合いが付かないと引っ張るでしょう。すると、人間のお尻の位置が動く。それが馬には負担になって、結果、消耗につながる。

福永 道中の姿勢が崩れないように、今も相当トレーニングをされているんですか?

的場 若い頃に比べれば、だいぶ量は減ったけどね。でも、普段から馬を締めて乗っているから、くるぶしが飛び出しちゃって。今、見せようか? 祐一くんもこうなってるでしょ?

(と、おもむろに靴下を脱ぎ出す的場騎手)

祐言実行

的場 ほら見て。

福永 うわぁ、すごい! 僕は…(と、福永騎手も靴下を脱ぎ)、なってません(笑)。

祐言実行

的場 いやいや、祐一くんも普通の人よりは飛び出してるよ。これがさぁ、何度も皮が剥けたり、ときには血だらけになったり(笑)。

福永 いかに馬を締めて乗っているかということですね。的場さんのくるぶしは本当にすごい。でも、すごく足が細いですよね。昔からですか?

的場 うん、昔から。

祐言実行

▲変わらない体型を維持している的場騎手、ふくらはぎもこの通りの細さ

福永 それでビシッと馬を締められるということは、騎座が相当にしっかりされているということですよね。筋力だけではなく。

的場 とにかく、締める力を維持するために、人一倍、エアロバイクを漕いだよ。いろいろやった挙句、馬乗りはエアロバイクで鍛えるのが一番いいなって思って。筋肉に負担を掛けずに鍛えられるからね。それで、40歳を過ぎてからはエアロバイクがトレーニングの中心になった。

福永 僕もふくらはぎは細いほうなんですが、結局“馬を動かす”ために必要な要素って、筋力そのものではないんでしょうね。もうひとつ、的場さんにお聞きしたかったのが、ズブい馬を動かすコツです。どのジョッキーも、その技術は的場さんが卓越していると口を揃えて言いますからね。もちろん、簡単に説明できるものではないと思うんですが、たとえばハミの刺激はけっこう強く与えますか?

的場 うん、口の刺激も大事だからね。一度止まった馬でも、ハミを入れ替えることでまたグイッといくことがあるから。

福永 地方は砂が深いので、おそらく馬の走り方も中央の芝のそれとは違うと思うんですが、的場さんの推進の仕方は、下からこう、すくい上げるようなリズムですよね?

祐言実行

▲「的場さんの推進の仕方は、下からこう、すくい上げるようなリズムですよね?」

的場 そうだね。開き手綱のようなスタイルで、鞭とハミで刺激を与えて推進を促す。馬はそういう刺激で、もうひと伸びすることがあるんだよ。とにかく押し出す感じっていうのかな。でもねぇ、もう年だからさ、最近は姿勢が乱れちゃって。

 若い頃は、内田(博幸)くらいキレイに乗れていたんだけど、今はもうバタバタ(笑)。内田は俺の教え子だからね。昔は似ていたんだけど。祐一くんの騎乗フォームなんか、本当にキレイだもんね。道中も直線も本当にキレイに乗ってくる。馬はものすごく楽だと思うよ。俺だって、できるなら祐一くんみたいに乗りたいよ。最近はもう体が硬くなっちゃってさ。

福永 いえいえ、僕はまだまだ模索中の身ですから。馬乗りという意味では基本的な技術は同じだと思うんですけど、中央の場合、芝もダートも最後の脚をいかに伸ばすかが重要になってくるんですが、おそらく地方の場合は、最後にバテてきたところからいかに持たせるかという技術が重要になってくると思うのですが。

的場 そうそう。極端にいえば、バテた馬をいかにもう一度生き返らせるかが直線の勝負だから。だから、中央と地方では求められる技術が違うんだよね。そんななかでも、内田や戸崎はしっかり順応して結果を出している。大したもんだよね。

福永 今は戸崎がトップですからね(11月28日の取材時点)。この厳しい時代に本当にすごいなと思います。

的場 あの子は不思議と勝つんだよなぁ。俺さ、20年間、大井でトップを守ってきて、2005年に内田に抜かれたんだよね。あいつは教え子だから、まぁいいやと思ってたんだけど、今度は戸崎が出てきてさ。

福永 内田さんも戸崎もすごいけど、20年間トップを守り続けた的場さんは、やはり“生ける伝説”ですね。

的場 いやいや、内田が中央に行ったあと、俺もしばらくはトップ争いをしていたんだけど、結局、戸崎には勝てなかったからね。どこかいいところがあるんだろうなぁと思ってずっと見ていたけど、彼は重心が常に前にある。そこがいいところなんじゃないかと思って。

祐言実行

▲「戸崎は重心が常に前にある。そこがいいところなんじゃないかと思って」

福永 それは大事なところかもしれません。

的場 馬はトモの蹴っぱりで走っているから、トモが疲れてくると伸びない。その点、人間の重心が常に前にあると、トモへの負担が少ないから、最後まで力が残ってるんだよね。戸崎は常に重心を前でキープしているから、馬のトモが疲れないのかなぁって。彼があれだけ勝つ理由は、それしか考えられない(笑)。

福永 確かに、彼の騎乗フォームは独特で、他のトップジョッキーとはちょっと違う感じですよね。でも、「重心が常に前にある」ということでいえば、そうかもしれません。

的場 俺もね、それを意識して乗ってはいるんだけど、年を取ると、重心を前に置くことが怖くなってくるんだよ。どんなに鍛えていても、やっぱり年には勝てないね。

(文中敬称略、次回へつづく)


『YU-ICHI ROOM』

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祐言実行とは

2013年にJRA賞最多勝利騎手に輝き、日本競馬界を牽引する福永祐一。まだまだ戦の途中ではあるが、有言実行を体現してきた彼には語り継ぐべきことがある。ジョッキー目線のレース回顧『ユーイチの眼』や『今月の喜怒哀楽』『ユーザー質問』など、盛りだくさんの内容をお届け。

福永祐一

1976年12月9日、滋賀県生まれ。1996年に北橋修二厩舎からデビュー。初日に2連勝を飾り、JRA賞最多勝利新人騎手に輝く。1999年、プリモディーネの桜花賞でGI初勝利。2005年、シーザリオで日米オークス優勝。2013年、JRA賞最多勝利騎手、最多賞金獲得騎手、初代MVJを獲得。2014年のドバイDFをジャスタウェイで優勝。

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