ヨーロッパ競馬の疑問「今年は半端な距離のレースが多すぎるのはなぜ?」

2017年07月05日(水) 12:00


◆スタートもゴールも従来通り、でも英ダービーも英オークスも去年とは違う距離

 日本の競馬が春競馬を終え、秋まで一流馬による戦いは小休止を迎えているのに対し、各国で毎週のようにビッグレースが行われているのが、ヨーロッパである。そのヨーロッパの競馬に関して、複数のファンの皆様から頂いている疑問について、今週のこのコラムではお答えさせていただきたい。

 かなりのファンの皆様が抱えていらっしゃる「疑問」とは、ヨーロッパのイギリスで施行されているレースの距離に関するものだ。皆様既にご存知のようにイギリスには、3歳3冠最終戦のG1セントレジャーSの「14ハロン132ヤード」に代表されるように、半端な距離で施行されているレースが多数みられる。

 かねてから決められていたスタート地点とゴール地点の間を、近代機器を使って改めて測尺してみたら、こういう距離だったということで、端数が出ないようにスタートなりゴールなりを動かすということはなく、半端な数字のまま施行されているのが実態である。

 日本の競馬ファンの中でも、常に海外の競馬をフォローしてきた人たちにとっては、半端な数字も「慣れっこ」になっていたはずだが、それにしても「今年は半端な距離のレースが多すぎる」ことに気づき、戸惑っておられる方を少なからずお見掛けする。

 例えば、先々週に行われたロイヤルアスコット。初日に組まれた3歳牡馬のG1セントジェームズパレスSは、従来は8ハロン戦として施行されていたものが、今年は「7ハロン213ヤード」という距離表示での開催となった。メートルに直すと、6.5メートルほど短くなったのである。

 ところが、スウィンリーボトムにあるオールドマイルのスタート地点は、どう見ても以前と変わってはおらず、ましてやゴールポストを動かした形跡もなく、「これはいったいどういうことか」という疑問が湧くのは、至極当然のことであった。2日目のメイン競走として施行された、4歳以上によるG1プリンスオヴウェールズSも、従来は10ハロンだったのが、今年は9ハロン212ヤードとなった。3日目のメイン競走で、ロイヤルアスコットの華とも呼ばれる4歳以上のG1ゴールドCも、従来は20ハロンだったのが、今年は19ハロン210ヤードで施行されている。

 それでは、ロイヤルアスコットの全競走が、従来とは違った距離表示で施行されたのかというと、決してそうではなく、初日の第一競走として施行された4歳以上のG1クイーンアンSは、今年も従来通りの8ハロンで施行されたし、短距離G1のキングズスタンドSもG1ダイヤモンドジュビリーSも、それぞれ5ハロン戦、6ハロン戦として行われている。

 実を言えば、英国では5月以降、従来とは異なる距離表示で施行されているレースが多数みられている。何はさておき、6月3日にエプソムで行われた第238回G1英国ダービーが、昨年までは12ハロン10ヤードと発表されてきたのが、今年は距離12ハロン6ヤードのレースとして施行された。同じコースで行われた牝馬のG1英国オークスも、古馬のG1コロネーションCも、同様に12ハロン6ヤードでの開催となっている。

 ダービーの代表的前哨戦であるヨークのダンテSは、8月に同じコースで行われるG1インターナショナルS同様、従来は距離10ハロン88ヤードとして施行されていた。そのダンテSの距離が、今年は10ハロン56ヤードと、メートルにして30メートル近く、短くなったのである。サンダウンのG1エクリプスSに向けた前哨戦として、同コース同距離で5月25日に行われたG3ブリガディアジェラードSも、従来は10ハロン7ヤードだったのが、今年は9ハロン209ヤードと、18ヤードほど短くなった。結論から言えば、上記したどの競馬場のどのレースも、スタート地点とゴール地点は、従来と全く変わっていない。

 しかし、英国の競馬を統括するBHAが、各競馬場の協力を得て距離を改めて計測したところ、従来発表されていたものとは差異のあるレースが多くあることが判明。競馬産業界、並びに、馬券を買う競馬ファンに、より正確な情報を提供することが肝要との判断に立ち、5月8日以降に施行される競走について、再計測された正しい距離を発表することになったのである。具体的には、再計測された262のコースのうち、実に88%にあたる230コースにおいて、これまで発表されていた距離が正確ではなかったことが発覚している。

 差異が出たのはほとんどが周回コースで、つまりは、コースのどこを計るかがこれまでは徹底されていなかったところ、今回は内埒から2ヤード(約183cm)の地点を計測することで統一を図った。アスコットで、直線コースのレースでは変更がなかったのも、そのためである。今後のメジャーな競走では、7月29日にアスコットで行われるG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSが、従来の12ハロンから、今年から11ハロン211ヤードに。ドンカスターのG1セントレジャーSが、従来の14ハロン132ヤードが、今年から14ハロン115ヤードに変更されることが、既に発表されている。

 日本の競馬ファンの皆様には、慣れていただくしか手はなく、筆者は今後も自分の原稿では、変に省略することはせず、公式発表のまま正確に表記することを心掛けたいと考えている。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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