函館2歳ステークス

2017年07月26日(水) 18:00

函館2歳S口取り

函館2歳S口取り


先々、マイル路線での活躍が期待できそうだ

 6月中旬から始まった北海道シリーズ函館開催も、23日(日)で終了し、今週末から舞台は札幌へ移る。以前の函館と札幌は、各々8週間ずつの開催だったが、JRAの売り上げ重視政策によって現在は各々6週間ずつに削減されており、わずか2週間ずつの違いとはいえ、これは結構大きい。6週間などそれこそあっという間に過ぎてしまう感じだ。

 23日の最終日は、恒例の函館2歳ステークスであった。日高と比べると函館はやや湿度もあって気温も高い。感覚的には3度〜4度くらいは暑いと感じた。

 日高から函館は、かなりの距離である。因みに浦河の私宅からだと、概ね360キロ。所要時間にして5時間余といったところか。この日、出発したのは朝5時半で、競馬場到着は午前11時前であった。途中、国縫(くんぬい)インターと八雲インター間が交通事故のために通行止めとなっており、一般国道に回された分だけロスが生じた。

 何回走っても、やはり函館は遠い。360キロは、東京駅を新幹線で出発すると、ほとんど岐阜羽島までの距離に相当する。体への負担を考えると苫小牧から函館までJR特急に乗るのがベストだが、自由が利かなくなるのでつい乗り慣れた車で出かける。ただ、往復700キロ以上、10時間余の運転なので、疲れ果てるのは覚悟しなければならない。

 さて、函館2歳ステークス。出走取り消しとなったモルトアレグロを除いて15頭となったもののひじょうにバラエティに富んだメンバーが揃い、レース前にはかなりの混戦模様と言われていた。人気も割れており、圧倒的な存在がおらず、どの馬にもチャンスのありそうな予想であった。

カシアス馬場入り前

カシアス馬場入り前

 1番人気はキンシャサノキセキ産駒カシアス(浜中俊騎手)で3.0倍。2番人気はルーラーシップ産駒のナンヨープランタン(岩田康誠騎手)5.1倍。3番人気はアルデバランII産駒のベイビーキャズ(ルメール騎手)の7.7倍と続いた。以下、アリア(丸山元気騎手)7.7倍、パッセ(岩部純二騎手)8.1倍と、ここまでが10倍を切る人気上位馬である。

カシアスのパドック

カシアスのパドック

 私が個人的に気になっていたのは、道営ホッカイドウ競馬から遠征しているヤマノファイト(父エスポワールシチー、阿部龍騎手)と、3番人気に支持されているベイビーキャズである。ヤマノファイトの4戦2勝、栄冠賞3着という実績は、出走メンバー中最も豊富なキャリアだが、ただいかにもダート向きの馬体と血統で、中央メンバーにどこまで勝負できるかと思っていた。

ヤマノファイトのパドック

ヤマノファイトのパドック

 もう1頭のベイビーキャズは、JRA日高育成牧場生産による「JRAホームブレッド馬」である。鞍上にルメール騎手を起用してきたことで、もし勝てば、JRA生産馬としては初の快挙となる。表彰式ではJRAが自身を表彰することになり、いったいどんなことになるのかという興味もあった。

ベイビーキャズのパドック

ベイビーキャズのパドック

 とはいえ、まだまだデビューしたての2歳馬だから、勝負は走ってみなければ分からない。余談ながら、この日の5レースに行なわれた新馬戦でも、圧倒的1番人気(1.2倍)に支持されたジェネラーレウーノ(父スクリーンヒーロー、ルメール騎手)が後方からの追走のまま、直線伸び切れずに3着に敗退する番狂わせもあったほどだ。追い切りの時計や動き、相手関係などから、ここではまず負けないだろうと判断されての1.2倍の支持率になったものと思われるが、いざレースとなると、得てしてこういう結果にもなってしまう。

 函館2歳ステークスの発走は15時25分。まずパッセが飛び出し、ウインジェルベーラがそれに続く。デルマキセキ、ダンツクレイオーなどもしっかりと追走する。

 1200mなのであっという間に3〜4コーナーを各馬が回ってくる。直線になって、パッセに代わり、先頭に躍り出たのはウインジェルベーラである。最内を丹内祐次騎手に必死に追われたウインジェルベーラが、そのまま逃げ切ってしまうのではないかと思わせるような展開であった。しかし、5番手から直線に向かうと一気にカシアスが差を詰め、きっちり測ったようにウインジェルベーラを交わしたところがゴール板であった。

カシアスが先頭でゴール板を通過

カシアスが先頭でゴール板を通過
2着のウインジェルベーラ(左)

2着のウインジェルベーラ(左)

 終わってみれば1番人気の馬が順当に勝ったことになるが、2着ウインジェルベーラは実に12番人気で、3着に4番人気アリアが入ったものの、3連単は17万5020円もの高配当となった。

 混戦を制したカシアスは、前述の通り、父キンシャサノキセキの牡馬で、母ラブディラン(母の父はディラントーマス)。新ひだか町・谷岡牧場生産。馬主は(株)カナヤマホールディングス。栗東・清水久詞厩舎所属。

引き上げてきたカシアス

引き上げてきたカシアス

 因みにカシアスの名前は、1974年のザイールで行なわれた世紀の一戦である世界ヘビー級タイトルマッチでジョージ・フォアマンを破り、王者となったモハメド・アリの旧名カシアス・クレイに由来する。このタイトルマッチは、事前の予想を覆してアリが8回KO勝ちを収めたことから「キンシャサの奇跡」と呼ばれるようになり、父馬名からの連想で、こういう短くて通りの良い卓抜な競走名がつけられたものと思われる。センスの良さを感じる名前である。

 レース後、清水久師は「千六くらいまでならこなせると思う。朝日杯、NHKマイルあたりを目指したい」と語っていたという。早々に賞金を加算できたことで今後のローテーションはひじょうに楽になったはず。先々、マイル路線での活躍が期待できそうだ。

 なお、同馬の育成は、浦河の吉澤ステーブル。そういえば、春のPOG取材の時に実馬を見て立ち写真を撮っていたことを、レースが終わってから思い出した。何とも間の抜けた話である。やれやれ。

POG取材時に撮影したカシアス

POG取材時に撮影したカシアス

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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