芝向きの馬を集めたセール「ターフ・ショーケース」の問題点

2017年12月20日(水) 12:00


◆上場馬の数を揃えるためにかなり無理をした形跡が明らかだった

 アメリカのケンタッキーに拠点を置く老舗のセリ会社「ファシグティプトン」が、2017年に創設した新たな1歳馬市場の「ターフ・ショーケース」を、2018年は開催しないことを発表した。

「ターフ・ショーケース」は、血統・馬体の両面から芝向きと思われる1歳馬をセレクトして上場し、米国内はもとより、欧州、アジア、豪州などからも購買者を集い、新たなマーケットを開拓しようという試みのもと、2017年9月10日にケンタッキー州レキシントンで開催された。

 北米における競馬の中心は、言うまでもなくダートだが、近年は芝のレースを見直そうという気運が高まっており、ことに2013年、産駒のほとんどが芝馬というキトゥンズジョイが全米リーディングサイヤーとなって以降は、芝血統の種牡馬の需要が高まりつつあった。例えば、市場で大人気のウォーフロントも、産駒の半ば以上が芝を主戦場にする種牡馬であり、既に亡くなってしまったが、スキャットダディもまた芝の活躍馬を多数輩出していた。

 そんな中、フランケルの全弟で、欧州で芝のG1を3勝したノーブルミッションが、2015年の春にケンタッキーで種牡馬入りして一定の人気を得ていたし、2017年の春には、芝のG1・5勝に加え、G1凱旋門賞でも2度2着になっていたフリントシャーが、同じくケンタッキーで種牡馬入りしていた。競走面に目を向ければ、かつてはほとんど見られなかった北米調教馬による欧州遠征が、近年は少しずつ見られるようになり、少ない挑戦馬の中から既に、ロイヤルアスコットのG1クイーンアンSを制したテッピンや、G1キングズスタンドS(芝5F)を制したレディーオーレリアらが現れ、北米の芝血脈に対する欧州競馬関係者の評価も高まりつつあった。

 芝血統を巡る情勢がダイナミックな動きを見せていただけに、この機に乗じて芝の若駒のマーケットを創成しようというのは、理に適った試みに見えたのであった。「最低でも150頭は上場馬を集めたい」というのが、ファシグティプトンの当初の目論見であったが、主旨に賛同した生産者が多く、出来上がったカタログには171頭の1歳馬が記載され、第1回「ターフ・ショーケース」は開催された。開催日の9月10日は、キーンランド・セプテンバーセールがスタートする前日で、セプテンバーのブック1には世界中から主要バイヤーが集まることから、そういう皆様には1日早くレキシントンにお越しになって、こちらの市場にも御立ち寄り下さいという思惑が込められていたのであった。

 だが、マーケットは残念ながら関係者の目論見通りには反応せず、結果は期待を裏切るものとなった。市況は、26頭が欠場して、実際に上場されたのは145頭だった中、74頭が総額503万5千ドルで購買され、平均価格6万8041ドル、中間価格5万2500ドルであった。第1回で、前年比較ができないため、市場としての評価は難しいのだが、この平均価格は、ファシグティプトンの看板1歳市場であるサラトガセール(33万9712ドル)や、ジュライ1歳セール(9万3645ドル)に及ばないのは致し方ないとして、同社が10月にメリーランドで開催しているミッドランティック1歳セール(2万5177ドル)や、同じく10月にケンタッキーで開催しているフォール1歳セール(3万6507ドル)よりも高く、これ自体はまずまずの数字と捉えることが出来た。

 問題は、49.0%という極めて高い数字になってしまったバイバック・レートである。実際に購買に出向いた関係者の声を総合すると、上場馬の質にバラツキがあったことは否めなかったようだ。良い馬もたくさんいて、ことに前出のキトゥンズジョイ、スキャットダディ、ノーブルミッションらの産駒には、サラトガに上場されていてもおかしくない質の馬が複数いたとされている。しかしその一方で、明らかに水準の劣る馬もかなり含まれており、上場馬の数を揃えるためにかなり無理をした形跡が明らかだったようだ。

 主催者にとってのもう1つの誤算は、ヨーロッパのバイヤーが、期待したほどの反応を見せなかったことだった。この水準の馬ならば、地元においてリーズナブルな価格で調達可能との見解に至ったようで、低調な購買水準に終わったのである。セール終了直後は、色々と改善しなくてはならない点はあるものの、「ターフ・ショーケース」は今後も続けるとしていたファシグティプトン社は、その後、様々な市場調査を行い、関係者との協議を重ねていた。

 最大の焦点は、どれだけ上場馬の質を上げることが出来るかにあったが、今年の結果を鑑みると、このマーケットに上質の馬を出すよう馬主を説得するのは容易ではないと主張するコンサイナーがほとんどで、上場馬の質を上げられないのであれば、継続は困難として、セールの消滅を決定し、13日(水曜日)に発表したのだった。

 コンセプトは間違っていなかったはずだが、確たる消費習慣が購買側に確立している中で、新たなマーケットを作ることの難しさを、関係者は改めて思い知らされた形となった。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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