「データの有用性を自身で表現する“予想の求道者”」<第20回>小林誠

2018年08月06日(月) 18:25

小林誠

編集、ライター、そして予想家としての顔を持つ小林誠さん。競馬のみならず、現在はボートレースの編集も手掛けるなど、ギャンブル全般に造詣が深い。

小林誠は20年来の友人である。その一方で小林誠は敏腕編集者でもあり、筆者も執筆している「POGの達人」は、編集デスクを務めている彼なしにはできない刊行物であることは、疑いようのない事実である。

 にもかかわらず、予想家としての小林誠に接する機会はまったくといっていいほどなかった。彼が導き出した、前半3ハロンタイムに特化した予想メソッドは、今や他の競馬予想家もその概念を取り入れるようになっているが、彼がオーソリティであることは揺るぎのない事実でもある。

 今回は友人ではなく、あくまでライターとしての立場で、“予想家・小林誠”の発する言葉を聞かせてもらった。(取材・文=村本浩平)

古くからの友人が“予想家”に

「大学(関西学院大学)を中退してからはホテルのバイトをしたり、競走馬の治療用レーザーを売る仕事をするために静内に住んだりと、いろいろなことをしていたかな。村もっちゃんと知り合ったのは、その時期だよね?」

 当時、共通の友人を通じて面識を持った彼が、北海道に渡ってくると知って、驚いただけでなく、生活環境を含めて大丈夫かな? と思った記憶がある。

「同じ会社の人間が本州から持ってきた、オープンカーのロードスターで、牧場を訪ね歩いていたけど、行く先々で怪訝そうな表情を浮かべられたなあ」

 と、彼は笑う。数カ月後にその会社を辞すると、知り合いから声をかけられる形でパチスロ雑誌の編集作業を手伝い始めるのだが、ギャンブル全般に造詣の深かった小林誠が、本格的に競馬の仕事、そして、競馬の予想を始めたのは、20代後半に須田鷹雄商店に入社してからだった。
 その頃、彼はある競馬媒体から、とんでもない依頼をされていた。その依頼とは、

「ファクターとして誰も注目していないものから、有益な予想術を導き出せ!」

 という企画。血統、ラップ、調教…などなど、多くの予想家たちが目を付けていない、あるいは見向きもしないファクターから、オリジナルな予想術を導き出すのは、ナンセンスを飛び越え、不可能なことのようにも思えてくるが、そのとき、彼が注目したのが“前半3ハロン”の時計だった。

「前半3ハロンの時計は、競馬をしている人でもそれほど注目していないだろうし、その事実として、新聞によっては時計を書いてないからね。そこで前半3ハロンの時計が優秀な馬だけを選んで、ボックスで馬券を買ってみたらどうなるかを試してみたら、むちゃくちゃ儲かって、これは予想術として使えると思うようになりました」

 “予想家・小林誠”は、類い稀なる研究心と着眼点の良さ、そして不屈の精神によって誕生したともいえる。

予想にも反映されている実直な性格

 小林誠は編集業のかたわら、ライターとしての執筆も行っている。その内容は多岐に渡り、馬券の話だけでなく、血統や馬体についてまとめあげられた原稿も目にしたことがある。

「競馬に関するいろいろな蓄積はかなりあると思う。そうした蓄積や、さまざまな事象を取り込んでいったものが、レースにおけるオッズとなっていくというのが、自分の考え。そのオッズ通りに馬券を買っていったのなら、回収率は75%近くになると思っているけど、競馬の面白さであり難しさは、何が起こるかわからない25%なんだよね…」

 と、彼は哲学者のように話し出す。競馬の予想は100%ではない。それでは彼がやってきたことはあまりにも無力ではないかと思ってしまうが、その“75%”を論理的に思考できることで、レースのイメージを作りあげていく、そして、予想を絞り込んでいくことは可能だと彼は話す。

「個人的には、自分の予想に全乗りしてもらいたくはないと思う。それでも、競馬を見たり、予想をしていくうえで、新たな視点の材料としてもらえることが理想なのかな」

 “前半3ハロン馬券術”が一番使えるのは、ダートの短距離、そして最終レースと彼は話すが、もちろん、芝でもその日の馬場が前残りの傾向となったときには、その効果は絶大となる一方で、差し競馬となった瞬間に、その効力は失われていく。

「それでも自分のフォームは変えないほうがいいというか、変えたくない。投網で魚を取っているとするのなら、網を投げ入れる場所を変えるように、前残りの馬場ではない予想をすればいいのかもしれないけど、それをやると、自分が網を投げ入れていたフォームが崩れてしまう。だからこそ定点観測を続けながら、予想が当たっていたら、その日の傾向は前残りの馬場、外れていたら、差しが決まる馬場として見てもらいたい」

 
小林誠

“編集者として小林さんが手掛ける雑誌やムックは、競馬以外にも多岐にわたっている。【netkeiba.com】

予想は万能ではないからこそ、身をもって証明していく

 的中率を上げるべく、予想の方針を変える気はないの? と友人として彼に尋ねると、

「自分は『器用貧乏かつ凡人』だから、それをやってしまうと、これまでのフォームが崩れてしまう」

 との言葉が返ってくる。友人として会っていた頃から真面目で真っ直ぐな人間だと思っていたのだが、改めて、彼の真面目さが伝わってくるエピソードを取り上げるとするなら、毎週、自分の予想した馬券を購入し続けているという事実だろう。

「毎週、予想した馬券を買っていくことでどうなるか、という観測の意味もあるけど、競馬の予想家である以上、予想を見ていただいている方にモノをいうには、ある程度の責任感は必要だとも思っている。その一方で予想だけを出したままにできる世界でもあるけど、幾ばくかでも自分を信じてくれた方と一緒に喜んだり、時には悲しんだりもできるだけでなく、『予想、そしてデータは有用だけど、万能ではないし過信すべきものでもない』ということを身をもって証明しているのかなあ」

 その言葉に、「“予想家”というより“予想の求道者”だね」と返すと、「そうかなあ」と彼は微笑む。これまでは友人として彼の予想を参考にすることが多かったが、今後は“予想の求道者”の言葉として、予想の参考としていくだけでなく、競馬をさらに深く見ていこうと思った。

小林誠

自身の予想はキッチリ買っているという小林さん。“予想の求道者”が導き出す、前半3ハロン理論をもとにした予想に今後も注目だ。【netkeiba.com】

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