北米でトップトレーナーの管理馬から禁止薬物発覚

2008年07月01日(火) 23:50

 北米から、トップトレーナーの管理馬から禁止薬物が見つかったとのニュースが、2件続けて聴こえてきた。

 まずは、2冠馬ビッグブラウンの管理調教師として、このところ何かとお騒がせのリチャード・ダットロウ師。彼が5月2日にチャーチルダウンズ競馬場で行われたG3チャーチルダウンズ・ターフスプリントに出走させ、2着に入ったサルートザカウント(セン8歳)から、規定量を超えるクレンビュタロールが検出されたのである。

 クレンビュタロールとは、呼吸器に何らかの炎症や疾病がある時に用いられる薬で、喘息や気管支炎等を治療する目的で人間に投与されることもあるものだ。アメリカでは競走馬への使用も認められているのだが、レース出走時の使用には制限があって、ケンタッキー州の場合は、レース後の検体で1ミリリットル当たりのクレンビュタロール含有量が20ペタグラム以下なら、合法となっている。目安としては、レースの3日前までに投与を止めれば、レース当日の値は20ペタグラム以下になると言われている。

 ところが、チャーチルダウンズ・ターフスプリント後に採取されたサルートザカウントの尿からは、1ミリリットルにつき41ペタグラムという、規定量の倍を超えるクレンビュタロールが検出。ケンタッキー競馬協会は、G3ターフスプリントにおけるサルートザカウントを失格処分とし、管理責任者であるリチャード・ダットロウに、7月6日から20日まで15日間の資格停止処分を課す決定をした。

 これに対しダットロウ師は、クレンビュタロールに関して自厩舎で誤った運用があったとすれば謝罪するとした一方で、15日間の資格停止に関しては、「この大事な時季に自分が15日間も管理馬から離れているわけにはいかないと」と、処分保留と身分保全を求めて協会に対して提訴する事態となっている。

 2件目の当事者は、現役最強馬カーリンの管理者として知られるスティーヴ・アスムッセン調教師だ。5月10日にローンスターパークで行われたメイドンにアスムッセン厩舎から出走し、勝利を収めたティンバートリック(牝3歳)から、禁止薬物のリドケインが検出されたのである。

 テキサス州競馬委員会は、管理責任者であるアスムッセン調教師に対して聴聞を行う日を、7月18日に設定。いつ、どこで、どんな経緯があって、ティンバートリックにリドケインが用いられることになったのか、事実の解明がなされることになっている。

 リドケインとは、元来は手術中に用いられる局部麻酔薬だが、投与量によっては心拍数を落としたり、血圧を下げたりする効果もあり、競走馬に用いると競走能力を高める結果に繋がることが確認されている。このまま有罪が確定すれば、テキサス州における前例に照らし合わせると、管理調教師には6か月間の資格停止という、重い処分が下されることになる。

 もっとも関係者によると、ティンバートリックから検出されたリドケインはごく微量で、自然界に存在する量とほとんど変わらぬ値であったそうだ。またリドケインとは残留期間の極めて長い物質で、仮に飼い葉などと一緒に経口摂取されたとしたら、いつ、どこで摂取したかを突き止めるのは、ほぼ不可能と言われている。

 身の潔白を訴えるアスムッセン師と、追及するテキサス競馬協会との間で、今後どのようなやりとりが交わされるのか、注目したいと思う。

 いずれにしても、スポーツの世界におけるドラッグの使用は根絶することが望ましく、全米が足並みを揃えてその方角に向かうことを期待したい。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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