2008年07月01日(火) 23:49
先週“予告”した通り、今回はディープスカイの夏休み風景を紹介する。
圧倒的な瞬発力で直線一気の追い込みを見せ、日本ダービーを圧勝したディープスカイ。6月12日、休養のため、生まれ故郷の浦河にあるグランデファームに無事到着した。
秋に向けてのいわば充電であり、ダービーで見せた剛脚は、休養に入ってからもまったく衰えることなく、連日BTCに通って調教を積まれている。
グランデファームは、以前より栗東・昆貢厩舎と縁が深く、ディープスカイより1歳年上のローレルゲレイロ(2/2東京新聞杯、3/2阪急杯優勝馬)も、ここで育成され、現在ディープとともに休養中だ。
グランデファームを訪れたのは6月30日(月)のこと。不安定な空模様の続いた今年の6月を象徴するように、月末のこの日もまた朝から霧のかかった肌寒い朝だった。午前9時にJRA日高育成牧場の一角にある1600mダートコースの馬降場で馬運車を待った。グランデファームは海岸に近い西幌別にあり、現地までは約10kmほどの道のり。ディープスカイは毎日、馬運車で調教のために輸送されてくるのである。
約束の時間ちょうどに大型馬運車が2台やってきた。そのうちの1台にダービー馬が乗っていた。
霧がかかっているせいか、気温も13度ほどしかなく、「涼しい」を通り越して「寒い」くらいだが、馬運車から下りてきたディープスカイは、僚馬とすぐ馬場入りし、まず常歩からウォーミングアップを開始した。
この1600mダートコースは、騎乗したままBTCの坂路を上がってきても入れるが、直接、コース横に馬運車で乗り入れることも可能だ。この日は、他にも何軒かの育成牧場がここで調教を行なっていたものの、頭数は多くない。ディープスカイは、常歩の後、ダクから軽いキャンターと徐々にスピードを上げ、計3周ほど回ってきた。
牧場代表の衣斐浩氏によれば「脚元はどこも悪いところはない」とのこと。故障による休養ではないので、毎日の運動は欠かせないのである。
「運動しないと、馬のためにも良くない」ことから、こうして毎日、通ってきているのだそうだ。
どうしても、ダービー馬という先入観があるせいか、素晴らしい馬に見えてしまう。馬体重500kgを超す馬格だが「大きさを感じさせない動き。手足の軽い馬」と衣斐さんはこの馬を評する。そして、もう一つの長所は「とても賢い馬」であること。
馬房でも大人しくしているようで、人間をてこずらせることはほとんどないという。しばらく調教を見学したが、実に淡々と与えられたメニューをこなしているような印象であった。従順というよりも、自分の置かれている立場や求められている仕事がどんなものか分かっているような表情にも見える。
「気を使いますね」と衣斐代表に問うと「そりゃあね。まずは無事に夏を過ごさせてやって、トレセンに送り出してやらなければ…」という答えが返ってきた。
ダービー馬を管理する重圧はおそらくかなりのものだと思うが、同じくBTCを使用して日々調教に励む他の育成牧場の関係者にとっても、GI馬となると、俄然注目度が変わってくるらしい。まして、ダービー馬。例えば、他の牧場の馬と接触したりする可能性もないとは言えず、そのためにBTCでは「馬名入りゼッケン」の使用を奨励しているという。
実際に、今年2月頃にはカワカミプリンセスがやはり馬名入りゼッケンを着用して調教している場面に遭遇したことがあるが、これは、単なる「見栄」ではなく、「不必要に他の馬を接近させないための配慮」でもあると聞き、「なるほど」と思った。
ちょうど30日の調教が終わった頃に、「ゼッケンが届いた」との知らせが衣斐さんの携帯電話に寄せられた。7月からは晴れて馬名ゼッケンを着用したディープスカイがBTCで見られそうである。今のところ8月一杯くらいはここで過ごすという。
秋に向けて、夏を無事に乗り切って欲しいと思う。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。