2008年07月08日(火) 23:50
7月3日、英国における主要G1・10レースをシリーズ化する構想が、競馬統括団体のブリティッシュ・ホースレーシング・オーソリティ(BHA)と、競馬チャンネルのレーシングUKによる共同提案という形で発表された。
既存のG1・10レースにポイントシステムを導入し、年間を通じて最多ポイントを獲得した馬を「チャンピオン・フラットホース(平地王者)」と認定。ポイント上位3頭を対象に、総額200万ポンド(約4億円)の賞金を用意しようというものだ。「ソヴリン・シリーズ」と銘打たれた新企画は、2010年のスタートを目指しており、以下のレースがシリーズに組み込まれるとしている。
レース条件競馬場 *2000ギニー、3歳牡牝、8f、ニューマーケット *ロッキンジS、4歳上、8f、ニューバリー *ダービー、3歳牡牝、12f10y、エプソム *プリンスオブウェールズS、4歳上、10f、アスコット *エクリプスS、3歳上、10f7y、サンダウン *キングジョージ、3歳上、12f、アスコット *サセックスS、3歳上、8f、グッドウッド *インターナショナルS、3歳上、10f88y ヨーク *クイーンエリザベス2世S、3歳上、8f、アスコット *チャンピオンS、3歳上、10f、ニューマーケット
ポイントシステムの詳細は未定だが、構想段階では1着10点、2着6点、3着4点となっている。
構想としては素晴らしく、調教師をはじめとした関係者からは次々と賛同の声が上がっているが、一方でこのシリーズ、実現までには克服しなければならない障害もかなり多く残されている。
1つは、200万ポンドのボーナスや、300万ドルになろうというシリーズのマーケティングにかかる費用を、どうやって捻出するかだ。英国では今から5年前の2003年に、当時の統括団体BHBの主導で、今回と同じように既存のG1をシリーズ化した「BHBトリプルクラウン&グランドスラム」という企画を導入。大きな話題となったのだが、結局財源の確保に困難をきたし、わずか2年で終末を迎えたことがある。構想をぶち挙げたBHAやレーシングUKは、テレビ放映権からの拠出や、スポンサーからの協賛金をあてにしているようだが、事はそう簡単には運ばぬだろうと見る関係者も多い。
2つめは、1つめの障害とも大いに絡んでくるのだが、テレビ放映権の問題だ。新シリーズを2010年のスタートとしたのも、BBCやチャンネル4といった主要競馬中継局と各レースのスポンサー契約が、2009年後半に一斉に更新時期を迎えるためで、これを契機に放映権を1本化して、財源とするとともにシリーズ化しようとの目論見があるのだ。ところが、例えば2000ギニーの冠スポンサーとなっているスタンジェームス社のように、「ウチは引き続きチャンネル4に中継してもらいたい」と主張する者も出てきており、調整はおおいに難航することが予想される。
3つめは、レース開催日の問題だ。構想では、シリーズに組み込まれる全てのレースを、放映権が高く売れ、より大きな集客の見込める土曜日に開催すべし、としている。ところが、上位10レースで現在土曜日に行われているのは、7レースのみ。ロイヤルアスコットのプリンスオブウェールズS、グロリアスグッドウッドのサセックスS、ヨークイボアのインターナショナルSは、平日の開催となっている。これらを土曜日に移せるかどうかも、今後の課題と言われている。
果たして「ソヴリン・シリーズ」は船出の日を迎えることが出来るか。今後の動向に注目したい。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。