2008年07月08日(火) 23:49 0
6月28日~29日、そして7月5日~6日と、二つのクラブ法人の1歳馬展示会を見学した。
いずれも、生産者が募集馬を提供するタイプのクラブで、6月末がターファイトクラブ、7月初旬の方がユニオンオーナーズクラブである。
天候不順に泣かされた今年の日高にしては、このどちらの週末も晴れてくれたため、青空の下、予定通りに日程を消化することができた。
6月28日~29日のターファイトクラブは、まず、土曜日が各育成牧場巡りに充てられ、夜は浦河町総合文化会館で懇親会。翌29日に優駿ビレッジ「アエル」で1歳募集馬の展示会というスケジュールである。
今年、ターファイトクラブの募集馬は、1歳が22頭、2歳馬が3頭の計25頭。バス1台40人ほどの熱心な会員が駆けつけ、指名する馬を見て歩いた。
ターファイトクラブの株主は、配布された募集馬パンフレットによれば計44牧場。その他、株主外の牧場からの提供馬も5頭いる。
昨今の経済状況が反映しているのか、1歳馬に限ると、44牧場で20頭(2頭は株主外)というのは、やや寂しい。少数精鋭の「厳選された1歳馬たち」でもあるのだろうが、会員の立場に立てば、「多くの馬の中から選ぶことができる」のがベストであり、もう少し募集馬の絶対数が欲しいところだ。
その点、翌週のユニオンオーナーズクラブは、募集頭数が世代56頭もいて、そのせいか見学ツアーの参加者も多く、バス4台に分乗しての日高入りとなった。
こちらは、土曜日午後に静内の北海道市場で展示会を行なった後に、ホテルを会場にしての懇親会が実施された。牧場関係者やクラブ会員など含めると総勢200人規模のパーティーで、牧場提供タイプのクラブは、こうした「会員と牧場との距離の近さ」が売り物である。前週のターファイトクラブの懇親会でもそうだったが、こうした“交流”を楽しみに足を運ぶ会員も多く、ユニオンの展示会の際には、前週ターフの展示会でも見かけた人がずいぶんいた。
知人のMさんは静内で居酒屋を営む団塊世代の男性で、こうした募集ツアーが地域経済にかなり貢献していることを強調する。「馬の好きな人は、夜になっても盛り場に出てきて、地元の人々と馬談義で盛り上がる。競馬がキーワードになって、人間関係の輪も広がるし、経済効果は大きいんです」という。
「静内の場合、6月末にはラフィアンの展示会が開催されて、その時には私の店も大変な賑わいだった」とか。
不景気感の漂う日高の活性化に最も効果的なのは、さしあたり馬に関連するもの以外にはなく、その中でも一口馬主の会員は、数がかなりいるだけに存在感が大きい。数百人規模で移動してきて、宿泊や飲食などにお金を落としてくれる大切なゲストであり、そうした人々にリピーターになってもらうための努力を惜しんではなるまい。
それには、痒いところに手の届くようなサービスとともに、クラブ所属馬の成績を上げるのが最大のポイントとなろう。もう、以前のように「売れ残り馬を高価格に設定して募集する」ような荒業はまったく通用しない時代である。目の肥えた会員たちには、価格が高いか安いかよりも、「走るか走らないか」の方が重要なのである。
そのために、日高の生産者ができることは、「自信のある生産馬を提供し、信頼のおける育成牧場から厩舎へと送り出すルートの確立」だろう。
かつて、厩舎に空きのなかった時代にはクラブの馬は厩舎に敬遠されていた。そして、やっと入れてもらった厩舎でも、しばしば理不尽な使われ方をされて、未勝利のまま引退を余儀なくされるケースも多かった。大袈裟にいうと調教師がクラブ馬の生殺与奪の権限を握っており、立場の弱い生産者などはとても口を出せるような雰囲気ではなかった。しかし、今では多くの厩舎が空き馬房を抱える時代になり、馬の確保に躍起になっている調教師も少なくない。預託料の焦げ付くリスクのないクラブの馬は今や大人気で、個人馬主が減ってきている現状を考えるとこうした傾向は当分変わりそうもない。
「どんどん勝ってくれ、とは言わないけど、せめて普通に出走してきてくれたら何とかペイできる」とある牧場の経営者は言う。出走手当てや奨励金、見舞金などによって不足分をある程度カバーできれば、クラブに生産馬を提供するメリットは十分にある、とその経営者は言い切る。「最悪の場合、一口も売れなくとも自分で競馬に使う、くらいの気構えでなければ絶対に成功しない」とも彼は言う。現にこの生産者は、そうやってそこそこの実績を挙げてきた。その分だけに説得力はある。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。