2008年07月15日(火) 23:15 0
7月8日には青森で「八戸市場」を見学した。春以来の厳しい市場の状況を象徴するかのように、八戸もまた今年は大きく数字を落としてしまい、売却率で7ポイント、売り上げ総額は実に前年の3分の2まで激減してしまった。
昨年が9408万円、今年が6079万円。その差、約3300万円に達する。来年は、果たして市場開催が可能だろうか、というレベルまで来てしまった。憂慮すべき事態と言わざるを得ない。
1歳に関しては、前年割れの状況が北海道に市場の舞台を移してからも続いており、今週月曜日から始まっている「セレクトセール」でも、さすがに今年は数字を落とした。
昨年、150頭中108頭で計34億4862万円を売り上げたセレクト1歳は、今年、同じく151頭が上場され105頭が落札。売却率こそ昨年と大差ない69.5%(前年比2.5%減)だったものの、売り上げ総額は24億6498万円と、昨年と比較すると一気に10億円近い落ち込みとなった。
平均は2347万円。昨年は3193万円だったので、約850万円のマイナスとなる。原油高により、あらゆる業界にそのしわ寄せが及んでおり、かなりはっきりとした形で馬の需要に陰りが見えてきているのでは?としか考えられないような結果であった。
セレクト1歳の最高価格馬は68番「ブルーアヴェニューの2007」で2億4500万円(税抜き)。アドマイヤの冠名で知られる近藤利一氏が落札した。周知の通り、クロフネの弟になる血統で、父アグネスタキオン。牡の鹿毛馬。2/23生まれ。
ただし億を超える高額馬はこれ1頭で、昨年と比較すると総じて価格が安い印象の馬が多かった。また、相変わらず、社台グループと非社台グループとの“格差”の大きさは如何ともし難く、日高からの上場馬に関しては、売却率が3割台に終わったはずだ、と分析する関係者もある。
日高の生産者が勝負をかけて配合したキングカメハメハが牡の産駒を生み、1歳になった今年、晴れてセレクトセールに上場する…という例を何頭も見たが、結果はかなり厳しいものになった。主取り、もしくは落札されても種付け料(600万円)を考えたらとても喜べない価格だったりといった上場馬が目立った。すでに2歳馬がデビューしているキンカメだが、とりわけ日高の小規模生産者にとっては、1000万円の壁をなかなか超えられない産駒が結構いる。この現実はかなり厳しい。
低調と言って良い1歳馬の結果から、15日(火)の当歳市場はいかがなものかと俄然注目を集めた。
当歳は、ディープインパクト産駒が計38頭も名簿に記載されており、否が応でもこの新種牡馬の子供たちに視線が集中した。
当歳初日のこの日、ディープ産駒は18頭(2頭欠場)が上場され、何と「完売」。1頭残らず落札され、ディープ効果はかなり大きかったようだ。18頭の合計金額は税抜きで12億4100万円。1頭平均6894万円に達した。
最高は242番「ビワハイジの2008」で、2億2000万円。トーセンの冠名で知られる島川隆哉氏が落札した。ディープインパクト産駒は他にも2頭が億を超える人気で、セリ会場から出て来たディープの子供を撮影しようとして、かなりの人数のカメラマンが押し寄せて来ていた。ほぼ、価格とカメラマン数は“比例”しており、被写体を中心に扇型にレンズの砲列がズラリと並んだ。
結局、当歳初日は終わってみると、165頭中124頭が落札され、売却率75.2%。売り上げは44億7150万円(税抜き)となり、昨年並みの実績を残している。
億を超えたのは全部で5頭。うち3頭がディープの子供たちで、当歳市場を支える原動力として十分に力を発揮したと言えるだろう。
それにしても、2日間が終わってみて感じるのは、1歳市場の厳しさだ。初日、JRAはブリーズアップセールを目指して育成馬を3頭購買したが、そのうちの1頭はノーザンファーム生産の牡のキングカメハメハ産駒。落札価格1500万円。「まさかこんなに安くノーザンのキンカメが落ちるとは思わなかった」とは、落札したJRA関係者の弁である。
来週の「セレクションセール」は、セレクトとは逆に、主流が1歳市場となる。セレクトセールにおける1歳市場の結果がどう影響してくるか、注目したい。
それにしても、セレクトの当歳は、やはり「別世界」の市場であることを改めて思い知らされた。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。