2008年07月22日(火) 00:50 0
終わってみると、セレクトセールも三日目の当歳が数字を落としてしまったため、トータルでは前年に比べて売却率、売り上げ総額、平均価格ともにやや下落した。当歳に関して集計すると314頭が上場され、222頭が落札。売却率70.7%。
それでも、当歳だけで77億円余りを売り上げ、初日の1歳市場と合わせるとセレクトSの三日間では合計101億7093万円に達する。このところの社会情勢を考えたら、これは健闘と言って良かろう。いくら数字を落としたと言っても、やはりこの市場はダントツの「巨大市場」として生産界に君臨している。
セレクトセールにおける社台グループの優位性については今更触れるまでもないが、ほとんど完売かそれに近い社台グループの生産馬に比べて、とりわけ日高の中小牧場が苦戦を強いられる場面が、今年も目立った。「社台の引き立て役」でしかないことを認めざるを得ないわけだが、そんな立場から脱却するには、やはり「実績」を上げる以外にあるまい。社台に比べて「割安だが遜色なく競馬で走る」ような馬を輩出するより方法がない。
さて、そんな日高の人々が「ホームグラウンド」にしている静内の「北海道市場」。その最高峰に位置するのが毎年7月に開催される「セレクションセール」である。
セレクトセールの翌週に設定された日程のため、どうしても前週と比較されてしまうわけだが、日高の生産者にとっては、こっちこそ本番という思い入れがある。
600頭以上の中から240頭に厳選された上場馬が出てくる市場なのだ。今年はよりブラックタイプを重視したラインナップになり、日高の良血馬が一堂に会する市場でもある。せめてここだけは売れてくれなければ困る、という切実な思いが日高の生産者には等しくある。
21日(月)。1歳市場を翌日に控え、この日は午前10時より上場馬展示が行なわれた。曇りがちながら気温は低め。馬にとってはまずまずのコンディションである。定刻前から気の早いバイヤーが三々五々集まり出し、厩舎まで出向いて上場馬をチェックしていた。
正午より比較展示。約40頭ずつ6つのグループに分かれて市場横のスペースに並べられ、その間を縫うようにしてバイヤーが一頭ずつ見て歩く。一通りそれが終了した後はまた各個に厩舎を訪れて目当ての馬をもう一度吟味する時間が設けられており、人気の高そうな上場馬は何度も馬房から引き出されて多くの人々の視線に晒されていた。
そして22日。いよいよ本番である。天気予報は低気圧の接近を伝えており、ほとんど「最悪」であったが、まだ午前中は東よりの風がやや強いものの曇り空。何とか午前中の比較展示(当日も前日と同じことをする)の時間までは崩れなかった。
当日の朝会場入りすると、駐車場が足りなくなるほどの来場者が詰めかけており、購買者登録数も昨年より多く、市場内は大変な賑わいである。比較展示の際には、行き交う人々が「今日はどうしたのかな」「ものすごく人が多いね」などと言葉を交わす光景があちこちで見られた。
賑々しい光景を目の当たりにすると、否が応でも期待は高まるのだが、いざ始まってみれば、ここもまた他の市場と同様に、かなり数字が落ち込んでしまった。
午後1時より始まった市場は7時を回った頃にようやく終了。228頭が上場され、落札107頭。売却率46.92%。売り上げ総額は11億5762万円(税込み)。前年比では、売却率で18.05%の減。平均価格でも-154万3184円。売り上げ総額では4億2472万円の減少となった。
出場頭数は31頭増えたが落札頭数は逆に21頭の減で、ここでもまた数字の落ち込みに歯止めがかからなかった。リザーブ制を導入しているため、市場内で見ていても、落札されたかどうかの判別がかなり難しく、実感としてはもう少し売れているのではあるまいか? と感じていたのだが、結果は何とも厳しかった。
午後、セリが始まる頃から天候が徐々に怪しくなってきて、時折激しい風雨に襲われる時間帯もあり、コンディションとしては予報どおりに「最悪」の状態になってしまった。前週のセレクトセールが汗ばむくらいの好天に恵まれたことを思えば、天候に関してもややセレクションはツキがなかったのかも知れない。
最高価格馬は165番「ダイワラブリーの2007」(父フジキセキ、黒鹿毛牝馬)。全兄にフジサイレンスがいる。激しい競り合いの末、シンガポールのDr.K C Tan氏が2900万円(税抜き)で落札した。生産は様似町の清水スタッド。コンサイナーはハッピーネモファーム。
ちょうどこの馬が落札された直後に、外へ出て立ち写真を撮影するつもりでいたのだが、あまりのひどい降り方に断念せざるを得なかった。その代わり、落札風景と前日に「先撮り」してあった立ち写真を添付しておくのでご覧いただきたい。
この前年割れの状況は、今後の市場にも必ず影響を及ぼしそうな気配だ。そして、昨年から比べると、「再上場馬」が激減しているのは、間違いなく「市場取引馬奨励賞」が廃止されたことに起因する。無理に市場で馬を落札しなくとも良い…ということになれば、今後の市場振興策はかなり難しくなることが予想される。サマーセールが今から思いやられる。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。