一か月遅れの一番牧草

2008年08月05日(火) 23:49 0

一番牧草01

 今年の初夏はかつてないほどの悪天候に祟られ、例年よりも一か月遅れで一番牧草の収穫がピークを迎えている。

 北海道全体では例年並みの気候で推移したのかも知れないが、こと日高管内に関しては、ほぼ「最悪」の空模様が続いた。6月後半から7月一杯にかけて、晴天の日は数えるほどしかなく、しかも続かないとあって、刈り取りの機会を逸したままいたずらに時間ばかりが経過した。

 今月に入り、4日(月)あたりから、ようやく天候が安定し始めたものの、すでに一番牧草は収穫の時期を大幅に過ぎており、立ち枯れしたり倒伏したりした間から二番牧草が伸びてきている状態である。

一番牧草02

 いつもの年ならば、この時期まで刈り遅れた牧草はまず「敷料」にしかならないが、今年の場合はこれを主たる粗飼料にしなければならない。まともに乾草を収穫できていない牧場が多いので、背に腹は代えられないのである。

 収穫期のずれ込んだ牧草は、著しく嗜好性が低い。のみならず栄養価も落ち、馬にとって良いことなど一つもないのだが、他に牧草がなければ、自家生産したこれらの牧草を与えるしかない。さもなくば、業者から輸入牧草でも買い入れる以外に手段がない。

一番牧草03

 例年ならば、早期に刈り取った採草地で二番牧草が始まるくらいの時期だが、今年はおそらく、二番牧草まで収穫できずに終わってしまう採草地が多いのではあるまいか。一番と二番との間隔は、最低60日などと言われる。今頃一番牧草の収穫がピークでは、二番牧草は10月に入ってからになり、その時期ではもう日照時間が短く、気温も低くなるため乾燥が進まない。収穫適期に作業ができなければ、後々まで影響が及ぶ。憂慮すべき事態と言って差し支えないだろう。

 「牧草を買い入れる」方法もないわけではないものの、ただというわけには行かず、そこには当然経済的な負担を伴う。原油高により、生産に必要な様々なものが値上がりしている現在、そこまでコストをかけられるかどうかは微妙なところだ。

 2日~3日にかけて浦河では200ミリに達するほどの降水量を記録した。倒れた一番牧草は、根の部分が傷んできており、晴天になるのを待って刈り取りが一斉に始まったものの、風に乗って薫る牧草の匂いはやや泥臭い。本来ならば、6月中旬から下旬くらいの適期に刈り取られた牧草は、甘く何ともいえない芳香を発する。しかし、もうこの時期になってしまうと、お世辞にも良い香りとは言えず、色あいもまた見るからに「不味そう」だ。

 今後、晴天はしばらく続くと言われるが、順調に刈り取りが進んだとしても、作業がすべて終了するのがお盆までかかってしまう牧場もあるだろう。

 さて、息つく暇もなく、お盆過ぎには「サマーセール」が控えている。セレクションセールの選考に漏れた馬や上場したものの主取りになった馬など含め、今年は1273頭のエントリーである。18日より22日までの5日間というロングラン。売却率や平均価格はともかくも、この市場が国内最大の上場頭数を誇り、とりわけ日高の生産者にとっては、ここが正念場と考えられているのは言うまでもない。

 セレクションセールの終わった7月下旬あたりから、日高ではサマーセールを目指して各牧場からコンサイナーに預託される1歳馬の移動が目立ち始めた。生産者の平均年齢が上昇しつつある現在、自力で1歳馬を市場に連れて行ける牧場は徐々に少なくなっており、コンサイナーは引く手あまたである。ただ、今年の場合には、セレクションからサマーセールまでの間隔が一か月弱と短く「十分な仕上げができない」との悲鳴も聞こえてくる。

 お盆だからといってゆっくりできるような余裕はなく、生産地の人々にとってはサマーセールが終わるまで気の抜けない日々が続く。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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