函館競馬最終日

2008年08月12日(火) 23:49 0

 周知の通り、JRAでは函館競馬場の開催を一年間休止し、スタンドやパドックなどの入場者滞留スペースを中心に大幅なリニューアルを実施することになっている。現在のスタンドは1970年竣工というから、38年前の代物だ。ここで競馬が再開されるのは再来年6月の予定。それまでしばしのお別れである。

 多くのファンに馴染んできた現スタンドも今回で見納めとあって、9日~10日は、函館まで足を伸ばしてきた。浦河の自宅から函館までは約370kmほどの道のり。苫小牧~八雲間は道央自動車道を使えるが、それでも所要時間は約6時間。さすがに北海道の広さを実感させられる。

函館スタンド

 現在まだ工事中の八雲~函館間が高速道路で結ばれたらもう少し時間が短縮されるだろうが、そうなると、今度は通行料金もまた跳ね上がることになる。今でさえ苫小牧東~八雲間で普通乗用車の場合4300円である。便利さの代償として、この金額は果たして高いか安いか、微妙なところだ。

 さて10日(日)、このところ北海道は連日好天が続いており、この日も朝からカラリと晴れ渡っていた。競馬場の開門は午前9時。開催最終日であるとともに、旧スタンドとのお別れでもあり、もう一つ、この日は種牡馬を引退し生まれ故郷で余生を送るメジロライアンが昨年に続き来場し、ファンの前に姿を披露することが発表されていたため、入場者が開門前から長蛇の列を作っていた。

 第1レースは午前10時40分。「はくぼ競馬」のため、第3レースと第4レースとの間が「昼休み」である。メジロライアンはそこで登場した。

メジロライアン1

 主戦を務めた横山典弘騎手を背に本馬場入りしたライアンは、とても21歳とは思えないほど軽快なフットワークで4コーナーまで進み、そこからゴール板目指して軽やかに芝コースを駆け抜けた。実年齢よりもずっと若々しい印象で、多くのファンから喝采を浴びていた。「ちょっと調教積んだらまだ走れるんじゃないか」といった声も上がっていたほどだ。

メジロライアン2

 ライアンはその後、最終レース終了後にもファンの前に姿を現し、記念撮影などのサービスを行なった。

 この日は、メーンが「第40回函館2歳S」。偶然にもメジロライアンを父に持つメジロチャンプ(メジロ牧場生産)が安藤勝己騎手の騎乗で出走することになっており、否が応でも「ライアン・デー」であることを意識させられる。ファンにとっては、こうしたキーワードが馬券検討に多少なりとも影響することになり、さらにJRAにとっても、ライアンの息子のチャンプが勝てば、新たなヒーローの誕生として興行的にも盛り上がる。その意味でも、メーンレースは注目を集めたのだった。

メジロチャンプ

 その函館2歳S。パドックを周回していた出走各馬が、本馬場に入ってきた。ここまではまったく変わることなく、出走馬は思い思いに返し馬を始め、三々五々スタート地点の2コーナーポケット目指してキャンターで走り去って行った。

 ところが、そろそろスタート時間と思しき頃になり、突然の場内アナウンスが流れ、何とメジロチャンプの出走取り消しが発表されたのだった。

 「あーあ」というようなため息にも似た声がスタンドから上がり、場内は何とも言い難い雰囲気に包まれた。「左肩跛行」が原因だったそうだが、これはいかにも痛い展開である。興行的にもかなりのマイナスで、JRAもツイていないなあ、と思わず天を仰いでしまった。メジロチャンプ絡みの馬券は6億円余に及び、それらは当然全て払い戻しされたため、函館2歳Sの売り上げは昨年を下回る結果に終わった。残念という以外にない。

 このレースを制したのはフィフスペトル。後方待機のまま4コーナーを回り、函館の短い直線を一気に馬群から抜け出し2.1/2馬身のリードで優勝した。父キングカメハメハ。社台コーポレーション白老ファームの生産で、馬主は(有)キャロットファーム。芝コース上で行なわれた口取りの記念撮影には、キャロットの会員が一堂に会し、カメラに収まり切れないほどの人数であった。

直線の叩き合い

 個人的に応援していたのは、ナムラミーティアとコパノマユチャンだったが、2着と7着。当然のことながら、馬券も外してしまった。

優勝馬口取り

 この日の入場者はかなり多いような印象だったが、最終的には1万人をわずかに上回った程度。因みに函館競馬場の入場者レコードは昭和49年9月1日の29757人。ざっと3倍の人数である。いったいどれほどの混雑だったものかと思う。昔の競馬場は混雑していたとオールドファンたちはよく口にするが、この数字に接すると、さすがに驚かざるを得ない。

 なお、来週月曜日からは、いよいよ「サマーセール」が始まる。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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