2008年08月19日(火) 23:48 0
8月18日(月)より、新ひだか町静内にある北海道市場にて「サマーセール」が始まっている。
今日現在、2日目が終了したところだが、やはりというか、予想されたように、かなり厳しい市場になっている。
この後、さらに3日間を加え計5日間に及ぶ長丁場。最終的にどの程度の数字が出てくるものかまったく先が読めないのだが、一つだけ言えるのは「市場を取り巻く環境は明るい材料に乏しい」という動かしがたい事実である。今年の場合、あらゆる市場でそれが如実に出ている。
そして、上場頭数では国内最大を誇る「サマーセール」でも、初日からかなり“寒い”スタートとなった。
18日は、229頭の上場で58頭が落札され、売り上げ合計は2億3194万5千円。平均価格は3,999,052円。
売却率にして、25.3%。4頭に1頭しか売れないのである。初日の最高価格馬は税込み1008万円の155番「キスザスカイ2007」(父ディンバーカントリー)で、税込み1000万円を超えた取引はついにこの馬だけとなった。
19日にはやや数字が回復したものの、それでも230頭上場で81頭の落札である。売却率こそ35.21%と前日より10ポイント程度上昇したが、落札平均価格は4,049,630円と、ほぼ前日と変わらない。やはり、全体に馬が安くなっている印象が強く、2日目も、税込み1000万円を超える取馬は、わずか2頭のみ。2日間が終わった段階で計3頭しかいないのである。
因みに昨年は、5日間で25頭が1000万円を超える価格で落札された。今年の場合、激しく競り合う場面が見ていても本当に少なく、それが価格の伸び悩みの最も大きな原因である。後3日間で高額馬の数が昨年並みの頭数に到達するかどうかはかなり疑問で、平均価格は昨年のサマーセールにおける460万円から、かなり大きく下落することはほぼ間違いなかろう。
市場内はかなり閑散としており、がら空きである。そして、生産者の立場からすると売れても喜べないような価格帯の落札馬がかなり目立った。生産原価どころか、種付け料にも満たない価格がコールされ、鑑定人が傍らに控えている販売申込者と“価格交渉”する場面が続出した。
例えば、販売する側が予め届け出ている「お台付け価格」が仮に500万円とすると、その価格からセリがスタートする前に、場内(もしくは場外の場合もある)から200万円や250万円程度のサインが送られてきて、それを鑑定人が販売者に伝え、即断を迫るのである。
販売者は、ほとんどが当該馬の生産者であり、その瞬間に頭の中で素早く“計算”する。「500万円とこっちが意思表示しているにも拘わらず、250万円とはどういうことだ?」と怒りも覚えるが、次の瞬間には「しかし今、250万円でついた顧客を逃すと、他にそれ以上の金額をコールしてくれる購買者が出現するかどうか微妙だ」などと考え、結局「じゃ、やむを得ないのでとりあえず250万円からセリをスタートして下さい」と鑑定人に伝えるのである。
その販売者の意思を確認した鑑定人は、250万円というコールを受け、「それでは250万円から始めたいと思います」と場内に宣言し、セリが始まる。もちろん、他にこの馬を欲しい購買者がいれば、価格はどんどん上昇するが、活発な競り合いの場面はわずかで、こうした「一声」で決まってしまう上場馬がとても多かったような気がする。
購買者から見れば、よりいっそう「良い馬を安く買える」市場にはなっているのだが、だからといって、多くの馬主がつめかけてきているような印象はまるでない。落札者の顔ぶれは昨年とほぼ変わらず、全体的に価格が下落しているために、それら常連購買者もまた右へ倣えとなる。
以前には300万円、400万円が相場だったようなサラブレッドが100万円や200万円で落札できる市場になってしまっているのだ。
雰囲気は以前のオータムセールのようになってしまっている。焦って「投売り」するにはまだ早いのだが、生産者の心理としては、「いずれにしても、赤字にしかならないのだから、この際、少しでも早く生産馬を手離して経費を節減したい」といったところだろう。そういう弱みに付け込んで・・・という表現はやや悪意がこもっているが、いわば「足元を見られて」サラブレッドが安く落札されて行くのだ。
こうした価格の下落に歯止めをかけるには、唯一、生産者が毅然とした態度で「希望価格以下では絶対に売らない。安く売るくらいなら自分で競馬に使う」というような強い姿勢を貫くしかないのだが、現実問題としてそんなことを実行できる生産者はごく一握りだ。それに、そういう生産者は、そもそもサマーセールなどに生産馬を上場しない。やはり「いくら安くとも、売らなければならない」事情を抱えた生産者ばかりなのである。
来週は5日間を通しての市場の総括をする予定だ。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。