2008年09月30日(火) 23:50
先週末、全米各地では12のG1を含めて22の重賞が行われ、10月24・25の両日サンタアニタでおこなわれるブリーダーズCの勢力分布がだいぶはっきりとしてきた。
今年から14に増えたBC各レースのうち、おそらくは最も人気の被った大本命となりそうなのが、3歳以上の牝馬によって争われるAW9fの「レディースクラシック(昨年までのディスタフ)」に出てくるゼニヤッタ(牝4歳、父ストリートクライ)であろう。9月27日に本番と同じサンタアニタで行われたAW8.5fのG1レディーズシークレットSを、昨年のBCディスタフ2着馬ヒストリカレディーに3馬身半という決定的な差をつけ優勝。デビューからの戦績を8戦8勝とした馬である。
ゼニヤッタは、ニューヨークを本拠地として映画やテレビ番組を制作する「マーヴェリック・プロダクションズ」のオーナー、エリック・クローンフェルド氏の生産馬。ゼニヤッタの母ヴァーティジヌーもクローンフェルド氏の生産馬で、氏は北米だけでなく欧州でも競走馬の生産所有活動を行っているから、ゼニヤッタは相当の馬好きによって生産されたわけである。
05歳9月にキーンランドのセプテンバーイヤリングセールに上場され、現在の馬主であるジェリーとアンのモス夫妻に6万ドルという価格で購入されたのだが、この価格はモス夫妻にとってこの上ないラッキーだった。まず、05年というのは父ストリートクライの初仔がデビューした年だったのだが、ストリートセンスがBCジュヴェナイルを制したのを皮切りに、産駒から活躍馬が続々と出てストリートクライが大ブレークする“前夜”だったということ。更には、ゼニヤッタの1つ年上の姉に、ラスヴァージネスS、サンタアニタオークス、サンタマルガリータHとG1・3勝のバランスがいるのだが、これらのG1制覇もまた06年以降のことで、セール上場時のゼニヤッタの血統は購買者にとってそれほど魅力的なものではなかったのである。3年経って状況が一変した中、今年のセプテンバーセールに上場されたゼニヤッタの半弟(父ジャイアンツコウズウェイ)は、ゼニヤッタの20倍近い115万ドルという価格で購買されている。
ゼニヤッタを購買したジェリー・モス氏は、A&Mレコーズの創設者の一人で、現在はオルモ・サウンズの会長を務める音楽業界の大物である。馬名のゼニヤッタとは、A&M時代に手がけたザ・ポリスのサードアルバム「Zenyatta Mondatta(=邦題ゼニヤッタ・モンダッタ、日本語版がある『デ・ドゥドゥドウ・デ・ダダダ』が収録されているアルバム)からとったという。
体高16.3ハンズ(165.6cm)、体重1200ポンド(544kg)という超大型馬のため、仕上がりが遅れに遅れたゼニヤッタ。デビューを迎えたのは3歳シーズンも終盤を迎えた昨年11月22日で、ハリウッドパークのAW6.5fのメイドンでデビュー勝ち。続くハリウッドパークのアロウワンスも勝つと、年が明けてサンタアニタのG2エルエンチノSで重賞初制覇。一息入れた後の次走が4月にオークローンパークで行われたG1アップルブロッサムHで、初ダートを克服してここでG1制覇。以降は再びオールウェザーに戻って、ハリウッドパークのG2ミレイディH,同じくハリウッドパークのG1ヴァニティーH、デルマーのG2CLハーシュH、そして9月27日のG1レディーズシークレットSと、破竹の快進撃を続けているのである。
余りの強さに一時はBCクラシックに出て牡馬と走ろうかというアイディアもあったのだが、さすがにそれはやめて牝馬同士のレディースクラシックに出てくるゼニヤッタ。現地にて今年のBCを観戦予定の方、大きくて強いゼニヤッタのレース振りにぜひ御注目いただきたい。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。